第80話 儀典③
夕食を食べてから、また書類の整理に取り掛かるつもりだったが、叙任式で疲労したのか睡魔に襲われた。
重たい真剣を持って両肩へ軽く触れるように剣を振り下ろすとか、それは剣の達人の仕事だよ。
叙任者の耳を切ったら、大変だろうに!
——いや、実際にカール公が何度も傷つける事故を起こしている——
はぁ?
だから、事故を未然に防ぐために、真剣ではなく模造剣を使うべきでしょう?
——ああ、その叙任式というものはだな、王の振るう刃の下に身を置く、という意味もあってだな——
叙任される側には真剣か模造剣か判らないのです。
安心安全な模造剣で十分ではないですか!
事故を起こす危険ってか、実際に耳を切られる事故が起こっているのにこれを放置しているとか、宮内省式典課の何という不作為!
——…そうだな、次回から改めよう——
本当にもう、勘弁して下さいよ。
疲れてはいたが、午後から上がってきた各種報告に目を通さないと、明日以降ヤバイことになるかもしれない。
この国の文字にも慣れてきて、何とか読めるようにはなってきたが、やはりまだ陛下の『翻訳』が必要だ。
「陸軍省から、短機関銃の送弾不良が解決。発射速度を変えて、評価試験中」
「これも陸軍省、陸軍航空隊準備委員会より、航空機の操縦士養成所、航空機整備兵養成所の設立が急務である」
ノイスブルク市街再開発、マルメ川河川改修、道路改修、編入した4県での病院不足、等々…
「
「これも第五局、先王カール公からレヴィニア前首相シルベルマンへ、迂回献金があった模様」
——最後の二つは、これは厄介だ——
◆
セヴェルスラビア 帝都デミドフ
駄目だ、話にならない。
皇太子宮へ向かう馬車の中で、皇太子ミハイル公は湧き上がる怒りを抑えきれないでいた。
病床にある皇帝アレクサンドル5世は、妙に弱気だ。
貴族会の要求、帝国議会開設をそのまま承認してしまった。
冗談ではない。
現状で制限選挙を行なっても、資産家と貴族以外の議員当選は不可能だ。
議会決議という名で、貴族と資産家の要求が国政へ反映されることになる。
未成年の就労を禁止し、義務教育を受けさせて、その世代が成人して国政へ対する自分自身の意見を持てるようになってから、選挙制度の導入だろう。
貴族が『雇用』の名目で事実上所有している『奴隷』の農奴問題を放置して、何が議会制民主主義だ。
怒りが増してくる。
農奴を売買の対象とするなど、我が国の臣民を何だと思っているのか!
皇帝陛下の赤子を、踏み潰されても構わないアリ以下の存在だというのか?
私が即位の暁には、目先の利益にしか興味のない貴族や資産家共に思い知らせてやる。
まず、勅令を出して貴族の私権制限を実施して、農奴の賃金引き上げを図り、農奴がある程度の貯蓄ができるようにしなければならない。
その上で、解放した農奴へ国有地譲渡だ。
30年だろうが40年だろうが、割賦で解放農奴の支払いの負担を少なくし
数名が道路脇から飛び出して、皇太子の馬車へ何かを投げつけた。
馬車内と馬車の下で爆発が起こった。
転落した馭者の制御が効がなくなった2頭の馬は爆発音に狂奔し、馬車の残骸を引き摺りながら、デミドフの街中を暴走し始めた。
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