第78話  儀典①

マルメディア 首都ノイスブルク 王宮 国王執務室



エムデン雪崩事故での唯一の生存者、王妹テレーザが入院して宮内省病院へ見舞いの後、王宮の執務室で難問の処理だ。


レヴィニアから割譲された4県には、貴族が11家居住していた。


これら貴族は割譲前に奪爵されており、現在は無位となっている。


別に封爵しなくても、所有している領地や資産は手付かずなのだから、爵位なんて関係ないじゃん・・・と思うのは、私が別な世界の住人だったからだ。


——早急に封爵しないと、体面を傷つけられた、と騒乱の元になりかねない——


…らしい。


——とにかく、体面、体面なのが貴族というものだ——


はぁ、実利よりも体面ですか。


——無論、体面を重視した上で、更に実利も追求する。扱いに困る人種だよ——


爵位の取り扱いを、レヴィニア時代の爵位を叙任するか、マルメディア編入に際して降爵するか、判断に迷った。


前例があるのではないか?と宮内省図書課へ問い合わせてみたら、職員が宮内公文書館所蔵の書類を引っ掻き回した結果、『外国貴族の領地を含む土地が、マルメディアへ編入された例はない」という、前例無しの回答をもらった。


——これは元の爵位で叙任するしかないな——


マルメディアの貴族が納得しますかね?


——立場が逆の場合、降爵に納得するのか?と問い詰めてやるしかないな——


では、仰せの通りに叙任しますか。


叙任封爵すると、今度は貴族院の議席の問題か出てくる。


公侯爵は自動的に議席を得るが、伯子男爵位の貴族院議員の議席は、4年に1回、同爵位の互選となっている。


この制度だと、自動的に議席を得られるジュワフスキ侯爵以外の議員就任は絶望的だ。

編入4県で、僅か1議席となる。


仕方ないので、勅令貴族院議員の制度を設けて、4県からジュワフスキ侯爵以外に1名議員を選出できるようにした。


この制度を含めた『レヴィニア貴族令』を発布して、爵位叙任、領地安堵、司法権剥奪(レヴィニアでは、領主にも司法権が与えられていた!)の諸問題に対応できるようにした。


それから11名を招致しての、叙任式だ。


叙任者の待つノイスブルク北駅へ馬車を遣わせて、王宮の一番立派な謁見の間で儀式を執り行なう。


これが馬鹿にならない時間がかかる。


まず、馬車での送迎に手間がかかる。


最初に王宮を出発し、ノイスブルク北駅へ向かう。


この時は叙任前で無位な者への迎えの馬車なので、1頭曳き立馭式馬車カブリオレだ。


だが、叙任後の帰りの際は貴族に相応しい4頭立て2頭引き座馭式馬車キャリッジになる。


次の叙任者用に、再度王宮からカブリオレを北駅へ派遣し、帰りにキャリッジを使う。


この繰り返しだ。


最初からキャリッジを使って、叙任された貴族が馬車を降りたら、次の者が乗れば時間短縮できるではないか!


虚礼廃止を訴えたい!


こんな無駄なことで時間を浪費されてたまるか!


——これが儀典というものだ。諦めてくれ——























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