第77話  作戦名「鉄槌」

レヴィニアの領土割譲当日、割譲予定の4県では正午を以ってレヴィニア国旗を降納し、マルメディア国旗を掲揚する式典を各地で執り行なう。


レヴィニアの4県、ブレスラウ、ブロンハウ、マイダネク、ポーゼンの県庁での式典へ、摂政フランツ公、王弟フリードリヒ公、先王従弟ラインハルト公、王従弟ヴィルヘルム公が臨席。


夫々の王族に法相アインホルン、蔵相フォン・ライニンゲン、外相ツー・シェーンハウゼン、宰相レーマンを組み合わせて、他県の割譲式に比して格落ちしないように配慮した。


先王カール公は、そんな式には興味がないそうだ。


出席要請へ拒否の回答をしてきた。


勝手にしろ!


私、ハインリッヒ3世は御不例の為、出席は能わず、となっている。


他にやらなくてはならないことがあるのだ。


レヴィニア側がこの式典へ派遣したのが、建設相、郵政相、文部相、農水相と、あまり重視していないのが分かる。


いや、この式典の重要さを外務関係者が理解していない筈はない。


国内事情から、王族、主要閣僚の派遣が出来なかった、と見るべきか。


ならば、政変も近いかもしれない。


忌々しいことだが、せっかく不可侵条約を締結したのに一方的に反故にされる可能性も出てきた。


忌々しいと言えば、カルシュタインだ。


先日提案した不戦条約は、見事に拒否された。


「貴殿の提案を現在の国際情勢を鑑みて勘案した結果、カルシュタインと貴国マルメディア間の不戦条約締結は時期尚早であると言わざるを得ない」だそうだ。


早い話が、『近い将来、侵略しますね』だ。


それなら先に、こちらから仕掛けてやる。





「これは、根本的に間違った造りをしています」


造幣局技官マンハイムが、カルシュタインの5000ドーリア(60000円)紙幣を見せながら説明した。


「どの辺が間違っているのだろうか?」


外務省第五局、通称マルメディア情報局局長フォン・ヴァイゼンが尋ねた。


マンハイムの説明に、全員が納得した。


——待て待て、紙幣偽造の話をしているのか?——


はい、その通り。


——万が一露見した場合、我が国の信用は失墜するのだぞ!——


『我が国』が偽造すると誰か言いましたか?


——はぁ?——


「検事総長、マルメディア国内に於いてカルシュタイン中央銀行発行の紙幣の原盤を製作した場合、これは何らかの刑事犯に該当するのだろうか?」


警察庁経済犯対策部部長ヘフナーが、検事総長フェーゼンマイヤーへ確認する。


「刑法21条の通貨偽造は、中央銀行法で規定された通貨に対してのみ効力を持つので、仮に誰かがドーリア紙幣の原盤を製作、紙幣の印刷製造を行なった場合は、これを処罰する法律はありませんな」


フェーゼンマイヤーが答えた。


「外国の通貨を偽造するという行為は、立法時には想定しておりません」


「問題ありませんね。ではマンハイム、君はキレニアの造幣当局への技術指導で『出張』となる。船旅もあることだし、帰国までには2ヶ月はかかるだろう」


造幣局局長ローレンツが命じた。


「…2ヶ月も必要はないでしょう。早速『出張』の準備に取り掛からなくては」


マンハイムが意を汲んで、そう答えた。


「紙の用意にも時間が必要だ。2ヶ月の想定で行動しよう」


フォン・ヴァイゼンが会議を纏める。


最後に国王として発言する。


「この件は、国王として裁可する。不埒なカルシュタインには、鉄槌を下さなければならない。作戦名は『鉄槌アイゼンハンマー』だ」













 




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