第76話 併合前夜
レヴィニアから割譲の、ヴァルタ川西岸4県の併合が迫ってきた。
レヴィニア側としては当然だが、国有資産や現業会社資産を全て放棄する訳ではないと通告してきた。
そうなるだろう、とは想像はしていた。
レヴィニア国鉄は、併合前後に割譲予定4県にある機関車、客車、貨車等の車輌は全て撤収。
煙草販売公社は4県での営業を取り止めて、在庫を全てヴァルタ側東岸へ持ち出した。
機関車、客車の不足は必至で、貨車も含めて増産の指示をだしたが併合当日には間に合わない。
マルメディア国鉄の運行管理局は頭を抱えながら、平常運行確保の為に奮闘している。
中央から派遣されていた各省庁、現業職の官僚も、併合後にマルメディア国籍を希望して継続勤務する者以外は、全て異動。
この『空いた穴』の手当てをしないと、行政、司法、現業の機能不全になる。
マルメディアの中央省庁で人事異動を発令して、正式な併合前だが業務引継を開始した。
軍もそうだ。
まず、装備を引き揚げた。
次に軍人の引き揚げだ。
将校の殆どが中央から派遣されたエリートだ。
マルメディア陸軍編入を拒んで、シロンスカのレヴィニア陸軍省へ異動となった。
一部将校と一般兵士の殆どは、マルメディア陸軍編入を希望してきた。
家族、親戚、知人が多い地元勤務を希望して、異動を拒否した形になる。
この7万を超える兵士達が問題だ。
レヴィニアとは10年間の不可侵条約を締結したので、この地域に7万もの兵を配備する意味がない。
しかし、異動を拒んで地元に残留した兵士だ。
他の地域に異動させるには、問題がある。
それにマルメディア陸軍の装備で再訓練、編成をしなければならない。
新たな国境線となるヴァルタ川に架かる橋には検問所、出入国管理事務所、関税事務所に保税倉庫まで新設しなくてはならない。
その為の土地収容で揉めている。
金が出ていく一方だ。
4県の名称変更も必要だ。
マルメディアの昔からの読み方で、
他にも、大都市の、
4県の住民が持っている住所の記載がある公的な書類は、全て記載事項変更で対応だし、その事務処理も大変だ。
逓信省は、郵便局局長のポストが増えて笑いが止まらないだろう、と想像していたら
『この4県に新たな郵便番号を付与しなければならない。レヴィニアで使用していた番号は、マルメディアの他県で使用中である。その告知の郵便番号簿を作成して全国に配布したいが、予算がない」
と宰相を通して泣きついてきた。
知らねーよ、もう。
単年度の赤字覚悟で発行してもらうしかない。
大蔵省からは、『レヴィニアチェスクとマルメディアゴルトの切り替えで、大量の紙幣、硬貨が必要』と報告があった。
ああ、それなら輪転機を回してねって話なのだが、金本位制を敷いている以上、勝手に紙幣の印刷は出来ない。
政府紙幣は、窮余の一手だった。
二度やる訳にはいかない。
大蔵省、中央銀行が外貨として所有しているチェスクの金交換をレヴィニアへ持ちかけているが、量が量だけに向こうが渋っているらしい。
兌換紙幣って何だっけ?
署名が必要な書類も急激に増えた。
摂政フランツ公、宮内省の秘書課侍従総出で書類を処理しているが、量が一向に減らない。
ゲームのように、『領土増えてラッキー!次の攻略目標は、ここね』とはならなかった。
畜生、在宅の24時間勤務やってるような感じで、休んでる気がしない。
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