第75話  グランプリマシン開発③

世界初の航空機飛行に成功したシュパンタウ工科大学のアードラーと命名された21号機だったが、その後2回の試験飛行を行って滞空時間30分を記録。

しかし、冬季は滑走路替わりのグロックナーの牧草地が積雪で使用できずに実機開発は中断していた。


一方、ヴァレーゼでは冬の間も試験飛行を繰り返して、滞空時間40分を記録していた。


まぁ、あまり気にすることではない。

技術の進歩で、記録はいずれ更新されるものだ。

だが、どれだけ技術が進歩しても、世界初飛行の偉業は永遠に残る。


今は滞空時間よりも、最高速度スピード積載量ペイロードの強化だ。

それには強力なエンジンが必要で、その為にも小型軽量だが大馬力の自動車用エンジンを開発し、それをスケールアップして航空機転用を狙っている。

そのエンジン開発も含めての、グランプリ開催なのだ。

レースでの勝ち負けよりも、技術的なブレイクスルーがあれば・・・まぁ勝つに越したことはないが。


そんなある日、王立マルメディア自動車工業RMAから連絡があった。

「開発した自動車を試走させる、高速走行向きの道路が無い」


馬鹿だった。

自分なりに目配り手配りしていたつもりだったが、自動車メーカーのテストコース建設を忘れていたとは・・・


ケムニッツに建設中のサーキットの完成はまだまだ先だし、高速道路も存在しない。

出走が見込める他の自動車製造者コンストラクターは、一体どうやっているのだろう?

自前のテストコースがあるのか?


急遽、飛行場兼テストコースの建設を命じる羽目になった。

グロックナーの牧草地を接収して、距離3000リーグ(3000m)の滑走路を2本、横風用滑走路1本、2本の滑走路をバンク付きの高速コーナーで繋いでオーバル周回コースとし、内側へロードコースを設ける。

平坦なので、バンクは別だが工事期間は短期間で済む筈だ。

優先順位は、滑走路、ロードコース、バンク、だ。


自分自身の愚かさに腹が立って仕方ない。

元の世界では当然のように存在していた制度や物質が、この世界には無い。

理解していたつもりではあったが、手抜かりがあった。


この件の対応をしていると、今度は陸軍とローヌメタルから「試製短機関銃の発射速度が遅い、送弾不良が多い」と報告が来た。

米軍のM3A1「グリースガン」丸パクリの短機関銃の筈だった。送弾不良は、マガジンかどこかに問題があるようだ、畜生。

発射速度は低くて構わない、と思っていたが、用兵側の陸軍は、もっと発射速度を上げろ、と要求している。

軽量な短機関銃で発射速度を上げたら、命中精度が壊滅的なことになるぞ。

もう知らん。

新型自動式拳銃も開発が難航しているようだ。

元がシンプルなコルトM1911A1なのに、何を手間取っているのだろうか?


様々な問題に頭を抱えている中、王都ノイスブルクの再開発で、路面電車か馬車鉄道、高架鉄道できれば地下鉄導入を目指して、ノイスブルク市長と市の実務者を呼んで会議を持った。


会議後には絶望感しか持ち得なかった。


城壁で囲まれた旧市街。

その城壁からの出入口は狭く、旧市街地の道路は馬車の擦れ違いも出来ない箇所が多い。

ここに王国の重要な施設が集中している。

火災が起きたら、中型、いや小型の消防車ですら進入出来ない。


詰んでいる。


施設の移転やら再開発にかかる費用を考えると頭が痛い。

開発主体は市だが、市の予算では足りる筈がない。

政府紙幣の流通は上手くいって経済指標は以前より明らかに良くなっているが、税収になるのは来年だ。

レヴィニアからの賠償金は分割払いで、手持ちの資金も心許なくなってきた。

来月には聖教会が大量に購入した長期国債の利払いもある。


知らん、もう知らん。


酒でも呑んで、寝るに限る。


——さすがは加藤、泰然自若とした姿を周囲に見せて、安心させるのだな——


陛下、寝て起きたら、問題が解決しているかもしれないじゃないですか?


——・・・——


















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る