第74話  グランプリマシン開発②

軍から「フリードマン商会から納入された自動貨車が、規定の性能に達していない」と報告が来た。


何故だ?

って陸軍の視察を兼ねて試験場へ行って、一目見て理解した。


タイヤだ。


納入1号車には、まともなタイヤが装着されていたが、2号車・3号車はスポークホイールのリムにブ厚いゴム板を貼っただけのタイヤを装着していた。

こんなタイヤもどきでは、舗装道路でも30km/hは無理だ。

しかも、納入1週間で後輪のリーフスプリングの折損が発生している。

板バネがポキッと折れるとか、どんだけだよ。


フリードマン商会からは、タイヤ成形時の加熱加圧でビードとサイドウォールの接着が不十分だったので、別の『タイヤ』を装着したためだ、と言い訳してきた。


知らんがな!


あんたら、これは詐欺だぞ!


王立タイヤ会社は、トレッド、カーカス、ビードワイヤー生産、成形加硫の機械化は完了していて、後はゴムと配合剤の比率を変えながら、品質のチェックを行なっている段階だ。

ただ、チューブ使用タイヤの特許は忌々しいことに、ヴァレーゼのタイヤ製造会社ペドロッティが所有していて使用料を支払う必要がある。


畜生、カーカスとビードワイヤーの製造機械関連で、何か特許申請できないものか?


気を取り直し、陸軍試験場を後にして王立マルメディア自動車工業へ向かう。


10月に開催予定の大賞典グランプリ用マシンの製作状況の視察と激励だ。





「どのようなマシ・・・、ゴホン、自動車を開発する予定だね?」


グランプリマシンの開発スタッフに尋ねてみた。


制動機ブレーキの性能が今一つです。やがて大幅な性能向上が見込まれますが、10月には間に合わないでしょう。そこで、制動機の数を増やします」


一輪ダブルブレーキか?

いや、それって、タイヤのグリップが追いつかない。

どうするんだ?


「前輪を4輪化して、車輪の接地面積増加と制動力強化を図ります。6輪車です」


あんたは、デレック・ガードナーか?

絶対、転生者だろ?


「その、ええと、君の名前は?」


「ハーゲンと申します、陛下」


いや、そこは冗談でもいいからガルトナーガードナーと言って欲しかった。


「ハーゲン、前輪の接地面積が増えると、車の旋回性も高まると思う。それは走行時に車体枠シャーシの歪みを招くのではないか?また、操舵輪が増えて、車体前部の複雑化、車体の重量増にも繋がるのではないかな?」


「仰せの通りです。車体枠については補助枠サブフレームの設置で対処します。重量増、前部の複雑化は、これは仕方の無いところです。しかし、それを補って余りある利点が、この6輪車にはあると開発担当者一同、考えております」


何で国王陛下が、開発中の競走用自動車に詳しいんだ?と不思議そうな顔をしていたが、ハーゲンはそのように返事をした。


「任せる。その6輪車が、10月に世界を喫驚させる走りを見せてくれるのを期待している。開発担当諸氏には、それが出来る筈だ。今現在も開発に奮闘しているのを承知しているが、今後、尚一層の諸君の奮闘奮起を期待するものである」

そう言って、その場を締めた。


マルメディアに敵愾心を抱いている、ヴァレーゼ国王フランチェスコ7世は、私(ハインリッヒ3世)を「糞エンリコハインリッヒ」と、陰で罵っているそうだ。

上等だ、糞フランツフランチェスコ

グランプリ出走マシンの車検当日に、6輪車見て呆然としながら失禁でも脱糞でもするといい。

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