第73話  グランプリマシン開発①

「車輌の規定が、全長5リーグ(5m)×全幅3リーグ×全高2リーグ以内。最低重量は規定無し。車輪は3輪以上。車輪覆いフェンダーの義務付け(オープンホイール禁止)。2座席以上。屋根の有無は問わない。車輌転倒時に運転者の頭部を保護する、金属棒籠ロールバーの設置。後部確認鏡バックミラーは、車体左右に各1個以上設置。前照灯ヘッドライトの設置は任意、尾灯テールランプ及び制動灯ブレーキランプの設置を義務付ける、とあるな」


ラヴェンナ自動車の設計主任ちブリオーニが、大賞典(グランプリ)の車輌規定レギュレーションを読み上げる。

「普通に4輪、発動機は前方搭載フロントエンジン後輪駆動リアドライヴ屋根は無しオープンの基本構造でよろしいか?」


「奇をてらわず、正統的オーソドックスに製作しましょう」

ベルナルディ車輌のフィオーレ技師が同意する。


「発動機の規定は、どうなってます?」

剣倶楽部スクーデリア・スパーダのコリリアーノが尋ねた。


「発動機は1車輌に1基。内燃機関に限る。気筒数、排気量に制限無し」

読み上げたブリオーニへ


「ふむ、5000セスコ(7500cc)の発動機2基の曲軸(クランクシャフト)を連結して、発動機1基と言い張るのも可能ですね」


「いや、さすがにそれは・・・」

フィオーレが呆れ顔をしている。

「発動機の長さが長大な物になってしまう。現実的ではないと思うが」


「縦に連結するのではなく、上へ連結するのですよ」

と平然と返している。


「重ねるって、全高と重心位置が高くなるだけだろう?」

こいつ、頭は大丈夫なのか?と不安になるブリオーニ。

そう思ってはみたが、世界で2番目に飛翔に成功した航空機『イル・ゲッピオチョウゲンボウ』に搭載されていた発動機は、このコリリアーノの手によるものだ。


「水平対抗の発動機を二段重ねにするだけですよ。それほど重心位置も高くならないし、場所も取りません」


あっ、という表情の二人。


「そんな構造は、想像すら出来なかった」

驚くフィオーレへ、


「ウチは金欠で馬小屋スクーデリアで発動機を作ってます。金が出ない代わりに知恵と元気を出してるんですよ」

と笑いながら返している。


「ま、発動機は車体に合わせた設計で、なるべく小型軽量の物を開発します。王室から予算が出るので、最高の発動機が作れる」


「君は、どのような発動機を想定しているのだね?車体製造側としても尋ねておきたい」

ブリオーニの意見に、


「この開催要項の周回路サーキットの図を見ると、明らかに発動機の全開時間は長くなるでしょう。高回転かつ振動の少ないV型12気筒。馬小屋スクーデリアでは、試作単気筒の発動機が7000回転で回っています」


「冗談だろ?7000だって?」

「信じられない・・・」

と言って、ブリオーニとフィオーレは呆れた顔をしてコリリアーノを見つめた。





イル・ゲッピオチョウゲンボウは、機体の重量が当初の予想より430ストーン(300kg)も重くて、1回目の試験では飛翔出来なかった。

発動機の出力不足が原因ではなく、王立科学研究所の機体設計製造に問題があったのだ。

急遽、予備の発動機を既存の星型5気筒発動機に縦型配置タンデムに繋げて空冷星型10気筒とし、当初予測よりも重い機体での飛翔に成功したのは、マルメディアのシュパンタウ工科大学のアードラーが20分間の飛行を終えた1週間後だった。

俺の発動機に問題はなかった。

機体側に足を引っ張られた。

今度は違う。

問題のない車体に最高の発動機を載せて、大賞典グランプリで勝つ。

それだけだ。


コリリオーネは秘めた闘志を燃やし始めた。


こうして、アウトモビレウニオーネAU1の開発が始まった。


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