第64話  外交戦⑥

マルメディア 首都ノイスブルク メンゲルン・インターナショナル・ホテル 貴賓室



「貴国が提示した条件を検討した結果、我が国としては承認できない部分がありましたので、こちらからも条件を提示いたします」


宰相レーマンがレヴィニアの外相と評議会外交顧問へ言った。


ヴァルタ川西岸の4県、ブラウラントブレスラウブリュンフェルデンブロンハウミストリンゲンマイダネクポルスハイムポーゼンの即時割譲。


ヤン2世の謝罪。


クリスティーネ公のフリードリヒ公への嫁娶。


賠償金30万ゴルト、レヴィニア通貨で750万チェスク(3000億円)。


ヴァルタ川東岸10リーグ(40km)の非武装化。


「・・・以上がマルメディアの要求となります」


宰相が伝え終えた。


「別室にて、提示された条件の検討に入りたい。少々お時間を頂きたい」


ブックスバウム外相がそう言ったが、


「我が国の条件提示は、これが最後だ。否か諾か、即答して頂きたいのだが」


とツー・シェーンハウゼンが返した。


まあまあ、とレーマンが間に入り、


「別室での協議は構わないが、早急に結論を出して頂きたい」


とレヴィニア側へ念押しした。





「総理、少し強めに迫り過ぎましたか?」


レヴィニア側二名が退出した室内で、ツー・シェーンハウゼンが苦笑いしながらレーマンへ言った。


「硬軟織り混ぜるのが交渉の鉄則だ。あれで丁度良い位だよ、外相」


レーマンが返す。


「だが、これで協定が纏まらなけば…」


「戦争になります」


外相が即答した。


「他国から侵略を受けてこれを撃退したが、相手側への報復、膺懲を行わない、行えない国家。相手側との休戦協定も結び得ない国家と見做されます。報復の一撃を加えなければ、以後も他国から侮られるだけです」


暗い目をしてツー・シェーンハウゼンが続けた。


「そうだな、そうなるな」


レーマンが視線を床に落とした。





「この条件なら受諾する他ありません」


外交顧問クビッツァが述べた。


ヴァルタ川東岸5県の非武装化は、軍事力の空白を生む。万が一、現政府に不満を抱く者が蜂起し、この地域を占領した場合、内戦となる。


それが、マルメディア側から東岸10リーグの非武装化の提示で済んだ。


賠償金もレヴィニアが覚悟していた1000万チェスク(4000億円)以下の750万チェスク(3000億円)だ。


割譲する領土も、当初に提示したヴァルタ川西岸の4県で収まっている。


「……」


ヤン2世は瞑目して何も語らない。


「陛下、どうか御聖断を」


ブックスバウムが決断を求めた。





「マルメディアが提示した条件について、回答いたします」


貴賓続き間ロイヤルスイートの応接室へ戻ってきたブックスバウムが、レヴィニア側の回答を伝える。


「提示された条件を了、とします」


「では、マルメディアへ抑留中n「協定締結後、ヤン2世は退位されます」手続…はぁ?」


レーマンが、何を言っているのだと声を上げた。


「馬鹿なっ!マルメディアは譲位など求めていない!レヴィニアは戦争する気か?!」


ツー・シェーンハウゼンが怒声を発した。


ヤン2世が退位すると、レヴィニアとマルメディアの協定内容に譲位要求があったとしか思われない。


レヴィニアで反マルメディア感情が沸騰するのは必至だ。


現在、政情不安なレヴィニアを、王位継承権第一位の14歳でしかないステファン公が抑えるのは不可能であろう。


レヴィニア側の二名が口を噤んだ。


「国王の大政帷幄権発動で、レヴィニアの内閣改造があり、この件での不満分子が大勢いることをマルメディアでは把握している。石炭不足で国鉄が貨物輸送に支障をきたしているのも、輸送力不足で一部地域で食料品不足が起こっていることも、炭鉱へ軍を派遣して炭労に従事させて、軍人から不満の声が上がっていることも、だ」


怒りのあまり、ツー・シェーンハウゼンが、マルメディアが掴んでいる情報をブチ撒けた。


「マルメディアに抑留中の軍人の解放に尽力しない政府への不満を持つ軍関係者、市民も大勢いる。ステファン公に、宰相のパフルヴィッツに、これを抑えることが出来るのか?出来まい!」


レヴィニア側の二人は声も無く、悄然と椅子へ座ったままだ。


「開戦の準備があるので、これで会談を打ち切りたい。ああ、炭労に従事させている軍人は、元の部署へ戻した方がいいだろう。もう直ぐ、必要となる筈だ」


レーマンが憤懣やる方ない表情を浮かべて、席を立った。












































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