第63話  外交戦⑤

マルメディア 首都ノイスブルク メンゲルン・インターナショナル・ホテル



メンゲルン・インターナショナルの一室に滞在しているハインリッヒ3世の下へ、慌ただしく宰相レーマン、外相ツー・シェーンハウゼンが現れた。


——は?オポーレ割譲?——


陛下、何か問題でも?


——大ありだ。そもそもオポーレはだな…——


陛下の説明によると、オポーレは120年前の第二次マルメディア・レヴィニア戦争で失ったオペルン県だ。


この地域は巨大な内海、クラビナ海に面していてドリンツィア海峡を抜けてヴァレーゼ海、さらに外海のミスラータ洋へ通じている。


この戦争でオペルン県を失って、マルメディアは海港と海軍を失ってしまった。


他にもポルスハイムポーゼンブリュンフェルデンブロンハウタルキルヒェンタルコフを占領され、領土の放棄をしている。


始末の悪いことに、オペルン県は元々はヴァレーゼのオプレツィア州で、140年前の南方戦争でマルメディアが獲得した領土だ。


現在でもヴァレーゼ系住民が多数居住している。


ヴァレーゼと領土問題で係争になりかねない土地だ。


内陸国のマルメディアには、交易で経済を活性化させる為に外海へ通じる港湾が必要ではある。


しかし、現状の国際関係を鑑みると、海上交易には海軍力の存在プレゼンスが欠かせない。


マルメディアでは極秘裏に、陸軍航空隊準備委員会という名の空軍省と沿岸警備庁準備委員会という名の海軍省の運用研究を行なっている。


マルメディアが海港を失い海軍力を喪失してから120年が経つ。


艦船や火砲の進歩により120年前とは海軍の運用も変化しており、当時の運用の技術、秘訣、知識が役に立たなくなっている。


一から海軍を立ち上げて戦える海軍戦力を整えるには、二十年は必要だろう。


——そう言うことだ——


海軍の金食い具合は、前の世界でも同様だ。


財政負担に根を上げた各国が、海軍軍縮条約を何度か結んでいた筈だ。


陸軍力の強化だけで頭を抱えているのに、更に金食い虫の海軍の創設など無理だ。


研究段階で、戦艦2隻を中心とした打撃部隊2艦隊を編成すると、必要な予算は艦艇建造に400万ゴルト(4兆円)、軍港整備に50万ゴルト(5000億円)、艦隊の運用、維持に年間150万ゴルト(1.5兆円)と聞いて、驚いた。


これだけではなく、艦隊を支援する輸送船等の補助艦艇、幹部養成の海軍大学、海軍兵学校、訓練学校、これらを差配する海軍省の設立、維持経費に海軍将兵へ支払う給与を含めると、天文学的な金額になる。


空母を主力とした機動部隊編成など、夢のまた夢だ。


——オポーレ割譲は拒否だ——


賠償金でも貰っておきますか?


——そうだな、そうするしかあるまい——


「宰相、オポーレ割譲は拒否しようと思う」

そう伝えた。


「それが無難だと思われます」


レーマンが同意する。


「代わりに賠償金を請求しようと思うのだが…」


「レヴィニアからの領土割譲を蹴って賠償金請求ですから、その、多額の金額を請求するのは難しいかと」


レーマンが説明する。


「金額の多寡ではなく、レヴィニアに非があって賠償金を支払った、という事実が必要だ」


「30万ゴルト(3000億円)を提示して、相手の出方を見ましょう。この金額は、決して払えない金額ではないと考えます」


ツー・シェーンハウゼンが金額に言及した。


「よし、それでいこう。ああ、後、これも要求してくれ」


そう言って、レーマンとツー・シェーンハウゼンに要求の内容を伝えた。



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