第62話  外交戦④

マルメディア 首都ノイスブルク メンゲルン・インターナショナル・ホテル



『国王ハインリッヒ3世御不例により、会談は中止』の連絡を受けた、レヴィニア国王一行は一様に落胆した。


だが、宿泊しているメンゲルン・インターナショナルの貴賓続き間ロイヤルスイートへ、マルメディア宰相レーマンと外相ツー・シェーンハウゼンが姿を現した。


「陛下の代参として御意を得ます。マルメディア総理大臣ハインツ・レーマン、こちらは外務大臣ヴィルヘルム・ツー・シェーンハウゼン侯爵と申します」


代表のレーマンが名乗った。


「閣下におかれましては、御足労頂き大変恐縮です。本来でしたら、会談を申し込んだ側の我々が出向かなくてはならないのですが…」


レヴィニア国王評議会外交顧問、前外相クビッツァが謝意を述べた。


「会談の申し入れがあったのですから、レヴィニアから何か要求か、或いは提示する物があると拝察いたします。承りますが?」


レーマンが用件を話せ、と迫った。


「ヤン2世陛下が御臨席されては、中々話し難い内容も含まれるのではありませんか?」


これはツー・シェーンハウゼンだ。


「うむ、そうだな。ブックスバウム外務大臣クビッツァ外交顧問、任せる」


と二人に声をかけて、ヤン2世は応接室を去った。


「さて、話を伺いましょうか」


ツー・シェーンハウゼンが促した。


「1月に締結したマルメディアとの協定は、今も有効なのでしょうか?」


ブックスバウムが尋ねた。


「…我が国を舐めているのか?協定の内容を不履行にして反故にしているのは、レヴィニアではないか!」


呆れ顔で、ツー・シェーンハウゼンが返した。


「閣下、大変申し訳ありませんが、事実確認をお願いしているのです」


クビッツァが返答を求めた。


「我々は、レヴィニアが協定を破棄したと認識している」


レーマンからの回答はレヴィニアを詰るわけでもなく、マルメディア側の認識を述べただけに留まった。


「他には?」


「マルメディアに抑留中のレヴィニア将兵の解放と、石炭、石油の禁輸解除の為の話し合いを、この場で行いたいのです」


「…そちらの提示する条件を伺いたい」


レーマンが続きを促した。


「ヴァルタ川西岸の四県、ブレスラウ、ブロンハウ、マイダネク、ポーゼンと東岸のオポーレを即時割譲。東岸の五県、イスクラ、タルコフ、チェハヌフ、ジェシュフ、ストラコニツェの非武装化。既存の軍施設は全て破却」


ブックスバウムが説明を続ける。


「人質代わりのクリスティーネ公のマルメディアへの輿入れは、発表通りに執り行なう。帰国後、ヤン2世が今回のオストマルク騒乱にレヴィニア将兵が加担していた件に対して謝罪」


「そちらの提示した条件は理解した。条件について検討したいので、時間を…そうだな、40分程度頂きたい」


「ご多忙にも関わらず、今回ご足労頂いた対応、万謝いたします」





「最後の打ち合わせで、条件提示にオポーレ割譲を加えて賠償金支払いを取り止める、と相なったが…」


ブックスバウムが語尾を濁した。


「マルメディアはオポーレ割譲は拒否してくるでしょう。領土をくれてやる、と言っているのを拒否ですから、そこで賠償金500億チェスク(2000億円)を提示して出方を見ましょう」


クビッツァが言うと


「そうだな」


とブックスバウムが同意した。







メンゲルン・インターナショナル・ホテルの別室




「オポーレを割譲だと?」


部屋を出たレーマンが唖然とした口調で言った。


「これは困りました。陛下に御聖断を仰がねばなりません」


ツー・シェーンハウゼンも呻きながらそう言った。




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