第59話  外交戦②

レヴィニア 首都シロンスカ 王宮


『この者は、大政帷幄した余の命により行動している。関係諸氏に於かれては、最大限の便宜を図るべし。


レヴィニア国王 ヤン・アンジュー・ルトヴィック・ウェジェルスキ』


打字器タイプライターで打たれた書類に署名していく、ヤン2世。


双頭狼の紋章入りの、レヴィニア王室だけが使える書類だ。


「10枚もあれば、足りるか?」


「十分です。1枚も使用しないことを期待してますが、どうなるか・・・」

新たに総理大臣に任命された、元法務大臣パフルヴィッツが答えた。


「本来なら、マルメディアとの交渉には総理は欠かせないのだが・・・」


「今回は止むを得ません。陛下不在の折に、政変クーデターの可能性がありますので」


先頃、外相以下5名の直訴を受けてヤン2世が大政帷幄権を発動し、総理大臣シルベルマンが解任。


法相パフルヴィッツに組閣の大命が下り、新内閣が発足した。


内閣から追い出された元総理シルベルマン、元国防相ハウベンシュトックに不穏な動きがあり、これを抑えなくてはならない新総理パフルヴィッツは、国王のマルメディア訪問には同行できない。


ちなみに、国王直訴に及んだ外相クビッツァは外相解任、議員資格剥奪。外交委員会委員長グラスは委員長罷免、衆議院登院停止2ヶ月。ブレスラウ選出のボンダレンコ、イェジェク、アルンシュタインの3議員は登院停止1ヶ月の処分となった。


クビッツァの処分が重く感じられるが、現在、事実上の外相である国王評議会外交顧問の地位にある。


「ハインリッヒ3世と会談を持てる、またと無い機会だ。話を纏めるしかないが、こちらから提示する条件がなぁ・・・仮に我が国を逆さにしても、これ以上は何も出て来ない、譲歩できない線だと思うが」


レヴィニア側からは、ヴァルタ川西岸の四県、ブレスラウ、ブロンハウ、マイダネク、ポーゼンは即時割譲。


東岸の五県、イスクラ、タルコフ、チェハヌフ、ジェシュフ、ストラコニツェの非武装化。既存の軍施設は全て破却。


不足なら、チェハヌフは50年間の租借。


賠償金1000億チェスク(4000億円)支払い。

人質代わりのクリスティーネ公のマルメディアへの輿入れ。


国王ヤン2世の謝罪。


これ以上の提示は無理だ、と国王評議会では決した。


しかし、この条件で戦死者の遺体返還と捕虜の段階的解放は困難ではないか、と閣議では意見の一致を見たが、状況が変わった。


マルメディアの先王妃ユリアーナ公崩御で、大赦の可能性が出てきた。


捕虜の給養を続けることは無駄だと、マルメディアも理解している。


ここで経費代わりの賠償金を支払えば、大赦で一気に捕虜解放もあり得るのではないか?という意見が国王評議会で出た。


ただ、マルメディアの出方が予測出来ない。


軍事法廷で、淡々と捕虜の裁判を執り行っているが、結審した者は全て極刑にもかかわらず、その執行は行われていない。


向こうでも関係改善の糸口は、残しておきたいようだが…


「外交顧問クビッツァも同行いたしますし、何とか協定を纏めて頂くほかありません。陛下に御出座願うのは臣といたしましては下策ですが、他に手がありません」


総理が深く頭を下げた。


「無能な者にまつりごとを任せたのは、他でもない、余の責である。王として、これを為さねばならぬ」


協定を纏めると、ヤン2世は宣言した。














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