第54話  お召し列車①

「お召し列車の1号編成を?」


「病床に伏せっているユリアーナ妃の実母、アンネリーゼ公のお見舞いで、マルティニキアを訪問したいと」


侍従長フォン・エーベルシュタインから説明があった。


「同行者は?」


「ユリアーナ公の他、弟妹公3名、ユリアーナ妃付き侍従23名」


「ああ、いかんな。フリードリヒは、レヴィニア訪問の予定があった筈だが…」


——そんな予定があったか?——


これから作るのです、陛下。


「…そうでした。日程の調整をして、義父となるヤン2世へ挨拶へ行かなければなりませんな」


「この厳冬期にわざわざ北のマルティニキアへ里帰りとは、中々大変だと思う。利用は許可しよう。ユリアーナ公お付きの侍従で、マルメディアへ残る者はいるのだろうか?」


念の為、確認しておかなければ。


「3名残して、他はマルティニキア訪問へ随行です。残る3名の中に、ダイクストラは含まれておりません」


侍従長が説明した。


「間違いありません」


「そうか。国鉄も特別編成の列車の運行には気を使うだろうな。予定は出されているのか?」


「山越えで直接マルティニキアへ向かうメールス・エーデ線を利用する予定となっておりますが…」


——やるのか?——


さあ、何をやるのか、よく分かりませんが。


「ふむ。しかし何だな、王族3名も1編成の列車で移動とは、用心が足りないと思うが」


「私もそう思います。この場合、万が一の事故を想定して、2編成での移動が適切ではないかと」


全てを説明しなくても、侍従長は何を求められているか、理解している。


「ダイクストラも、我が国で二十数年活動して特段何も無かったので、慢心というか油断しているのかもしれません。私が彼女なら、今回は王宮に残る選択をしますが」


「では侍従長と意見の一致を見たようだ」


再度、確認してみる。


「御意」






お召し列車牽引用に隅々まで磨きあげられ、先頭に国旗を交差させたマルメディア国鉄6000型蒸気機関車が牽引するのは、先頭から車掌車、暖房供給車、手荷物車、随員用寝台車、随員用客車、随員用食堂車、王室専用食堂車、応接車ラウンジ、王室専用寝台車、展望車サロンの10両編成の特別列車だ。


蒸気機関車は動輪3軸、平地での最高速度が時速30バイレグ(120km/h)の急行用で、勾配区間でも補助機を必要としない登坂力を持っている。


小雪が散らつく中、定刻通りにノイスブルク北駅 王室専用乗降場ロイヤルプラットフォームを発車し、マルティニキアの首都デン・ヘルデルには翌日の夕方に着予定だ。


見送りの国鉄の制服を着た職員の一人が駅事務所へ戻り、電話のダイヤルを回した。


「乗車を確認した。国境の手前、グムンデンで機関車の給水と給炭で停車する以外は途中停車の予定はない」


職員はそれだけ伝えて受話器を置いて、駅事務に戻ることなく何処かへ消えた。







「ふむ、ヘルナハイム駅でも定刻通過か」


「我が国鉄は優秀ですな。少々の降雪では遅延を発生させません」


「だが、これからは山岳区間だ」


「事故が起こったりすると、大変ですな」


誰かの笑い声がした。



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