第52話  外交委員会①

レヴィニア 首都シロンスカ 衆議院 外交委員会



「総理、私の地元、ブレスラウに駐屯する陸軍第21師団の将兵多数が12月から行方不明となっております。ご存知か?」


ブレスラウ県選出の与党議員ボンダレンコが質問した。


内閣総理大臣、の委員長の声に促されて総理大臣シルベルマンが立ち上がった。


「事前の質問通告書には無い質問ですので、回答を拒否します」


ふざけるな、誠実に回答しろ、と議場内から野次が飛んだ。


「ボンダレンコ君」


「これら行方不明の将兵から家族の下へ、最近になって手紙が届き出した。家族の了承を得て手紙を読んだが、その内容は『現在、マルメディアの捕虜収容所に収監されている。解放のために、地元選出議員、聖教会、政府諸機関へ働きかけてほしい』という驚くべきものでありました。何故、彼ら陸軍将兵がマルメディアで虜囚となっているのか、ご説明頂きたい」


どうなっている、政府は回答責任を果たせ、と議場は騒然となった。


「内閣総理大臣、委員会は誠実な回答を希望します」


答弁台へ向かう総理へ、委員長が声にをかけた。


「…先程と同様、質問通告」「総理は誠実に回答して下さい!」


委員長のグラスが怒りを露わにして総理へ注意する。


「よろしいか、我々ブレスラウ選出の超党派の議員が把握しているだけで、マルメディアに抑留されている陸軍将兵は1000人以上になる!一体、何があったのか、政府は行方不明将兵の家族、国民に対する説明責任がある!」


「軍関連の質問は、国防委員会でお願いします」


答弁台で総理がそう言った直後、議場には怒号が飛び交った。


混乱を抑えるべく、委員長が委員会の暫時休会を宣言し、総理、質問人の議員、外相を委員長控室へ呼んだ。





「総理、説明してくれ」


椅子に深く座って紅茶を一口啜ってから、議長が説明を求めた。


「…去年12月のオストマルク騒乱に、軍が介入した」


「ッ!馬鹿な!」


「まさか!」


信じられないと呻く議員と委員長。


「第21師団の2個大隊2000名が民間人を装って潜入し、騒乱に加担。降伏した」


「民間人だと?軍服を着ていない便衣兵ゲリラとして戦闘したのか?」


委員長が呆れて詰め寄った。


「そうだ。非正規戦を行なった」


「…戦死者も出ているような事態を、政府は隠蔽するつもりだったのか?」


議員が怒りを抑えながら、総理へ詰問した。


「現地の独断だった。西部方面軍司令官のトカチェンコ大将が、旗下の軍でオストマルクを占領、リヴィニアへ編入。その功績により元帥昇進…」


現地軍の暴走だったと訴える総理大臣。


「現地云々は関係ない。現地軍を統制できないなら、文民統制シビリアンコントロールの能力に欠ける総理大臣として辞職せねばなるまい。中央の関与なら、尚更だ。最高指揮官として辞職せねばなるまい。いや、辞職の前に、マルメディアで虜囚の憂き目に合っている1000を超える将兵だ。外相の意見は?」


委員長が外務大臣クビッツァに話を振った。


「意見も何も、去る1月にマルメディアと秘密協定を結んで、捕虜解放への道筋は出来ていた」


外相の発言で、総理の顔から血の気が引いて青白くなった。


「どういうことだ?解放への道筋があるなら、捕虜から解放を訴える手紙が家族へ届いたのは何故だ?」


「出来ていた、と過去形になっているが、何かあったのか?」


委員長と議員が疑問を口にした。


「ああ、そこにいる総理大臣シルベルマンが、全て打ち壊した。全て、だ」














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