第51話 書斎②
「陛下は、『君臨すれども統治せず』の方針を貫いておりますが、私から見ても一流の政治家の素養を感じます。何故、この国難の折、親政に打って出ないのですか?」
フランチェスコ7世へ疑問を投げかける、デ・プロビーニ外相。
「国王親政を行なって失政があった時に、誰がその責任を負うのだ?内閣か?国王か?」
訛りが消えた。
「本来なら陛下です。失政の責任を取って退位して頂くしかありません。ただ、国王陛下は絶対無謬の存在なので、それは出来ません」
国王、皇帝が親政失敗の責任を取って退位したなど過去の歴史にも無いし、これからも有り得ないだろう。
「そうだ。失政の責任を取れない者が、政治に関与してはならない」
明確に言い切った。
「王の仕事は三つだけだ。一つ、国民国土を愛すること。慈しむこと。二つ、信頼できる為政者に政治を任せること。三つ、後継者を作ること」
指を一つずつ立てて、そう説明した。
「一つ目は、まぁ出来ていると自負しておる。国民がどう思っているかは知らんがな。三つ目も何とかなった。嫡男フェデリーコは、頭の出来はマズマズだ。ただな、二つ目よ…」
「ヴァレンティーノ首相ではいけませんか?」
フランチェスコ7世は、政権与党総裁のエットーレ・ヴァレンティーノでは駄目だ、と暗に言っている。
「あいつはなぁ、微妙な
と言葉を濁した。
「では、誰が宰相の椅子に就くべきだとお考えですか?」
一服してから、葉巻の灰を
「鉄血同盟、あれは論外だ」
「社共党、此奴らは政治家ではない。夢想家だ」
社会学者フロイスマンが提唱した無産階級大衆運動を党是とする社共党は、政治家ではないと切り捨てた。
「労働党には人はいる。だが、目先の利益と支援する労働組合に縛られていて、国益を考えられない」
野党第一党も、国王の目から見ると大局観がないと批判される。
「与党自由党は、党内抗争に明け暮れる猟官運動の集団だ。国益よりも党益、自らの利益を優先する奴らばかりよ」
所属する政党をそのように批判され、外相は黙り込んだ。
「全く、どいつもこいつも、よ」
溜め息をつく。
「では、どうなさるのです?」
該当者がいない、それを問うた。
「目先の利益ではなく、将来を見据えた大局観があり、決断力もある。ある程度の資産があるので、汚職に手を染めることも無い。そんな政治家だ。君だ、外相」
「!」
「君なら
「…いささか買い被り過ぎなのでは?」
「時には弱腰外交と罵られよう。時には売国奴と中傷されよう。しかし、それらの誹謗に耐え泥に塗れる覚悟が無い者に、政治の任に当たる資格は無い。アンドレア・デ・プロビーニ子爵、政治家としての義務を果たせ」
大命が下された。
「…臣として、為すべきことを為します」
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