第49話  弔問③

路肩に駐車中の車に向かいながら、考えていたことを侍従長へ話してみた。


「あのなぁ、侍従長。エレオノーラのような幼児を抱えた寡婦シングルマザーが就業できるよう、託児所を…だな。まず、宮内省から、その…」


「出来ません、という答えを期待されているのですか、陛下?」


フォン・エーベルシュタインが憮然とした表情で、そう返してきた。


「やれ、と一言命じて下されば良いのです」


「侍従長は、この政策は賛成ということか?」


念の為、確認してみる。


「託児所運営の経費は必要ですが、寡婦の社会進出の手助けになります。福祉政策として秀逸だと思われます」


侍従長のゴーサインが出た。


「うむ、では命ずる。やれ」


「御意」


改めて、国王としての命を下した。


託児所を宮内省内に設置し、乳幼児のいる寡婦の就業を助ける。


単なる自己満足かもしれないが、福祉対策としてやらなければならない政策だと思う。


経過を見てからの判断になるが、他の省庁にも横展開しなければならない。


王宮へ向かう王室1号の車内はしばらく無言だったが


「本日の陛下の為され様を見て、改めて陛下の警護に身命を賭すこと、ここに誓う次第です。喩え死するとも悔いはありません」


と、警護のシェーファーが言った。


「私もです」


前席のミッターマイヤーも、同じように言ってきた。


「私も」


王室1号の運転手であるケストナーも、声を合わせた。


だが


「ならぬ。それは許さん」


と返した。


「えっ?」


「は?」


「それは!」


三人から同時に声が上がった。


「私の警護を、命懸けで行うのは構わない」


自分の思うところを伝える。


「だが、私の為に死ぬことは許さん。警護の者が死んでしまったら、誰が私を守るのだ?」


屁理屈とも取れるような質問を、三人に浴びせた。


「そっそれは…」


「その場合は、別な者が…」


答えられないシェーファーとミッターマイヤー。


「陛下のお気持ち、不肖ケストナー、汲み取ることが出来ました」


警務官ではない車馬管理課のケストナーは、理解してくれたようだ。


「どんな死地を迎えようとも、必ずこれを切り抜け生き延びて、私に仕えよ。死ぬことは許さん。良いな?」


何があっても生き抜いて、警護の任務を全うしてもらわねばならない。


私はそう考えている。


「仰せの通りに!」


「はっ!必ずや生き延びて、陛下にお仕えいたします!」


「御心のままに!」


顔面を紅潮させ、シェーファーとミッターマイヤーが応え、ケストナーが最後を締めた。


——君は士気を高めるのにも長けているな——


いや何、もう一声『死ぬ時は、家族と祖国マルメディアの為に死ね』くらい言った方が良かったですかね、陛下?













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