第47話  弔問①

マルメディア 首都ノイスブルク 王宮 国王執務室



——国王暗殺未遂…いや、護衛のベロフ殺害事件か。在マルメディア カルシュタイン大使館で事件に関与していた人間の処分は済んだ。さすがに私の暗殺を許可したカルシュタイン公の処分は無理だろう、この件はこれで幕引きか?——


あちらの王族をどうこうするのは、相当に難しそうですね。


向こうは4.名死亡、2名行方不明の現状を把握している訳ですから、警戒は厳重でしょう。


——…加藤、すまないが侍従長を呼んでくれないか?——


はっ、直ちに。


——行かなくてはならない所がある——


……


——事件で亡くなった私の護衛だった、ベロフの家だ。自動車で向かう——


弔問、ですか…


侍従長に連絡し、王族専用車2台と警務官乗車用の1台、計3台の自動車を用意した。


王族専用自動車は、フリードマン商会自動車部門が新規開発したエンジン…元の世界のスペックで表現すると、V型12気筒7000cc、120HPをラダーフレームに搭載し、コーチビルダーが作った4人乗り車体を架装した物だ。


去年、初飛行に成功し、国王陛下より鷲(アドラー)と命名された機体に搭載されていたエンジンが、直列6気筒6000ccで40HPだったから、エンジンの進歩のスピードは相当なものだ。


自動車レースを開催すれば、技術革新は更に早まるかもしれない。


——君の言っていたように、自動車の時代は近いようだな——


そうなってもらわないと、立ち上げた国営のタイヤ会社も自動車製造会社も、自動二輪の会社も倒産してしまいます。


先々を見越して宮内省の馬匹管理課を車馬管理課へ拡張発展させて、新たに募集した自動車関係の人員も失業者になります。


——そうだな——


自動車と言えば、その昔、資料を集めてメルセデス 320 タイプB カブリオレを3Dプリンターでスクラッチして、『亡命チェコ軍人から襲撃される、ナチス国家保安本部長官RSHAラインハルト・ハイドリヒ』という『類人猿作戦オペレーション・エンスラポイド』がテーマのジオラマを作成して某コンテストへ応募したが、出展拒否された苦い記憶がある。


何か理由だったのか、未だに分からない。


この自動車…王室1号は基本定員4名だが後部座席が相当に広く、補助席に1名が座れるようになっている。


今日は王室1号の前に、警務官が3名乗車している露払い代わりの小型の自動車と、後方の王室1号と全く同じ型の王室2号で隊列を組んでの走行だ。


王室1号には、私(国王)と警務官2名、王室2号には侍従長と警務官3名が乗っている。


「私が王族専用自動車に乗ってもよろしいのですか?」


と侍従長フォン・エーベルシュタインが尋ねてきたので


「構わない。同じ自動車が2台あれば、どちらに王が乗っているか、襲撃者も判別がつかないだろう」


と返事をすると、侍従長は露骨に嫌そうな表情を見せてきた。


王宮を出発後約30分で、車列は亡くなったテオドール・ベロフが住んでいた集合住宅へ着いた。


王室1号を降りて車列を眺めてから、そうか、先頭にはパトロールカーが必要だな、と気付いた。


やはりVIPの車列にパトカーと白バイが無いのは、味覇ウェイパァーの入らない炒飯みたいで何か物足りない。


ダメだ。

















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