第43話 陸軍迫撃砲小隊②
「目標変更!2時、敵、歩兵部隊!距離1300リーグ!(1300メートル)」
指揮官の声で我を取り戻したか、観閲者が双眼鏡から目を離し、作業する砲手を見守る。
マルメディア陸軍用に開発された迫撃砲は、全周射界を確保するために円形底盤を採用し、砲尾と底盤の結合部分を中心に旋回できるようにしてある。
砲手達は素早く砲身旋回を行い、基準線を定め、砲身の角度を修正する。
今度の目標には、人体を模した板が40枚。
カルシュタインの1個小隊分に相当する数だ。
歩兵が散開しているように、板は配置されている。
「発射準備!」
「発射準備、よし!」
「発射!」
基準砲による試射は、小隊を模した目標よりも、かなり背後に着弾する。
外れたか。
次の修正射だ。
「弾着!敵部隊背後!仰角2°上げ!」
「2°上げ!」
「基準線、右へ1°!」
「右へ1°、修正!」
「修正射、準備!」
「準備、よし!」
「発射!」
今度は敵部隊の中央に着弾する。
「命中!続いて効力射!小隊、準備!」
「効力射準備、よし!」「準備よし!」「発射準備、よし!」
砲弾を半装填にして、3人の砲手が叫ぶ。
「小隊、制圧射撃開始!発射!」
板の敵小隊へ迫撃弾の雨が降り注ぐ。
目標近辺は鉄火の嵐となっていることだろう。
——正直、こいつで狙われる軍隊には入隊したくないな——
全くです。
「小隊、撃ちかた、止め!」
3門2分間の全力射撃で、90発は発射されただろうか。
目標一帯は白煙に包まれていて、様子が分からない
それでも、試射を観た観閲者は異様な興奮に取り憑かれていた。
「開発側としては、今回のように3門1個小隊9名、小隊指揮官1名の、10名での運用を考えております」
開発側技術者の説明に対し、ディートリヒ砲兵大将が「陸相閣下、これは砲兵が扱う火砲なのですか?それとも歩兵が扱う歩兵兵器なのですか?」と縄張り争い剥き出しの質問をする。
ただ一人、ピッケルハウベを被り旧式の赤色の制服を着ていて周囲からは浮いているが、一向に気にしていないようだ。
ここで偏狭なセクショナリズムとは!
——あの砲兵大将、この場で縄張り争いか?——
「ああ、それは検討中だ」と陸軍大臣フォン・クライストが返事をする。
参謀総長フォン・クリューガーが「閣下、ついでに彼奴の予備役編入も併せてご検討下さい」と耳打ちする。
「分かっておる」
迫撃砲の試射を行った部隊員9名は、指揮官の「全隊、休め!」の号令を受け、整列している。
開発側のジーゲン重工の技術者が「不発弾はありませんでした。なので、目標付近へ行って結果を確認することに危険はありません。行ってみましょう」と言う。
まず、1000リーグ先の建築物のあった場所へ向かう。
煉瓦の破片が広範囲に散らばり、残された基礎の部分が、そこに建物があったことを物語っていた。
全員が無言で煉瓦の破片を手にしたり、欠片を蹴ったりしている。
さらに300リーグ先の仮想カルシュタイン歩兵小隊の守備位置へと向かう。
直撃があったのか、目標の板は2枚が消失しており、残りの38枚中36枚の板に貫通痕が複数、無傷の板がそれでも2枚あった。
「戦死2名、戦闘不能36名。殺傷率は、ざっと9割ですか」
「実戦なら、攻撃を受けたら更に散開し匍匐姿勢を取るだろうから、殺傷率はもっと低くなる筈だ」
と砲兵中隊と歩兵中隊の士官同士で意見交換をしている。
板の貫通痕の位置が頭部と胸部にある物は「戦死判定」として、戦死者13名、負傷者25名と調査の結果を報告してくる士官もいる。
「この兵器は大変素晴らしい。だが、砲弾の消費量が多すぎる。前線で消費量に見合った補給を受けられるのだろうか」と参謀総長が懸念を口にすると、全員が黙り込んだ。
最盛期のローマ軍は、「ローマは兵站で勝つ」と言われて常勝を誇っていた。
マルメディアは兵站で勝つ、と言われるようにすれば良いだけではないですか、参謀総長。
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