第42話  陸軍迫撃砲小隊①

迫撃砲の2回目の試射だ。

陸軍オーデンヴァルト演習場で、実弾射撃を実施する。

迫撃砲1個小隊3門での全力射撃の披露を予定している。

軍高官に、迫撃砲の威力を味わってもらおう。


三社共同開発となった、164ラム(82ミリ)迫撃砲の試射には、王立兵器工廠、ジーゲン重工、アンハルト製鋼の技術陣、私(国王)、フォン・クライスト陸軍大臣、フォン・クリューガー陸軍参謀総長、ディートリヒ砲兵大将の他、無作為に選ばれた砲兵中隊中隊長10名、歩兵中隊中隊長10名が観閲者として参加している。


迫撃砲1個小隊10名が、分解された迫撃砲を運搬して演習場へ現れた。

1門当たり3名の砲手達が、よく訓練された動きを見せる。

1名がシャベルで地面を水平に慣らし、底盤を強く固定して設置。

他の2名は支持架、砲身を組み合わせた後、視準器を覗き、基準線を定める。


指揮官はレンジファインダーを覗きながら叫ぶ。

「目標、前方12時の建築物!距離1000リーグ!(1000メートル)」


1門当たり3人の砲手が一斉に迫撃砲へ取り付き、砲身の角度を調整し砲口栓を外した。

装填手が5ストーン(3.5キロ)ある迫撃弾を半装填してから「準備、よし!」と叫ぶ声が響いた。

まず、小隊基準砲になる中央の1門の試射だ。


「発射!」


やや乾いた轟音がして、迫撃弾が目標の建築物目がけて飛翔する。

目標の建築物の方へ双眼鏡を向けると・・・いや、建築物といぅよりは、数棟密集した小屋だな、の手前から着弾の白煙が上がった。


「弾着、建築物の前方!」


惜しい、直撃にはならなかったか。


——初発は至近弾か——


「仰角、1°下げ!修正射、準備!」


「1°下げ!」


支持架の角度が素早く調整される。


「修正射、準備よし!」


「発射!」


再度、乾いた轟音がして、迫撃弾が砲身から飛び出した。

今度は小屋に直撃する。

煉瓦製の小屋から破片が飛散するのが、肉眼でも見える。

おおっ、と声にならない響めきが観閲者から上がる。

双眼鏡で見ると、半壊とまではいかないが、ある程度のダメージを受けているようだ。


「命中!次、効力射!準備!」


他の2門の砲手が、小隊基準砲と同じ角度に支持架の仰角を調整する。


「準備よし!」「準備、よし!」「準備よし!」


「阻止射撃開始!小隊、発射!撃ちまくれ!」


発射の直後に素早く砲口から迫撃弾を装填、各砲から毎分20発の連続発射で、目標の数棟あった小屋は2分と経たずに跡形もなく破壊される。


「目標撃破!小隊、撃ちかた、止め!」


観閲者は全員沈黙している。

双眼鏡を手にして、かつてそこに存在していた目標であった、煉瓦作りの建築物の残骸を見ている。


更地になってしまったか。


——初弾発射から2分、いや、砲の設置からでも5分と経ってないぞ。あの小屋の中に居たら、と思うと・・・——


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