第41話 過去の負債
つまり、マルティニキアから来た侍従が、実はカルシュタインの情報部の偉い人だと。
——ああ、それだけではない。イン・バイルシュタイン家は、マルメディア王家・・・オストラヴァ=ミーステク家の嫡流なのだ——
はい?
嫡流?
・・・陛下は王位簒奪者ってことですか?
——私の祖先に対し、そう主張する歴史家や法学者もいる——
はぁ、それっていつの話です?
——聖歴1313年、マルメディア王ヘルムート2世が崩御した。王位継承権第一位は、ヘルムート2世の嫡男マンフレートだった。だが、幼い頃の落馬事故で片脚が不自由になったマンフレートの即位は認められないと、議会が拒否した——
え〜と・・・400年前?それはまた・・・
——議会はマンフレートをマルメディアからカリンハルの辺境、バイルシュタインへ追放した。マンフレート・イン・バイルシュタイン侯爵の誕生だ——
——王位継承権第二位のヘルムート2世の次男が即位し、オットー1世となった。約400年前の話だ——
はぁ、その侍従さんからすると、ウチは正統なマルメディア王の家系だ。簒奪者に鉄槌を!ですか。
そんな400年前の証文出されても、とっくに時効でしょ?
——1015年、マルメディアの前身、当時のマーレンジア王国のフレデリック遠征王の定めた『基本法』に、王家に対する反逆には時効無し、とある。『マーレンジア王国の滅亡で、基本法は効力を失っている』派と『現在の憲法は、基本法に謳われた改正手続きを踏んでおらず、したがって、現憲法は無効。基本法は現在も有効』派の間で論争が繰り広げられている——
それってつまり、侍従さんの実家いや、未婚だから、何だその、イン・バイルシュタイン家は、マルメディア王の継承権がある、と。
——ああ。代々のイン・バイルシュタイン家当主は、マルメディアの王位継承権を放棄していない。一部学者は『現王は簒奪者の家系なので、代々相続した動産・不動産を正統のイン・バイルシュタイン家へ返納、譲位すべし』と主張している——
はぁ、そう言われてみれば、そうかもしれませんが・・・
——仮にオストラヴァ=ミーステク家の親戚一同が集まれば、上座はマルメディア王の私ではなく、元カルシュタイン蔵相クロートヴィヒ・イン・バイルシュタイン侯爵になる——
何とも不自然な席次ですね。
——まぁ、そんなこんなで、正攻法で王位継承できないのであれば、裏から手を回してマルメディアを叩く。王になれなくても、王位簒奪者のフォン・マルメディアが統治する国を潰せたら、それでいい位の気持ちではないのかな?——
高位の貴族からすると、王位って魅力的に見えるんでしょうね。
——だろうな。聖教会に国債の利払いをして、鉄道新線敷設、道路新線建設、既存線の舗装拡幅、病院増設、まあ、他にも諸々の案件抱えて、金と知恵を絞り出してって、随分と魅力的な地位に見えるんだろうな。今やっている案件を完遂してくれるなら、王座を放り出しても私は構わないのだが——
マルメディアの改革を成し遂げた陛下は、約束通りにイン・バイルシュタインへ譲位する。しかし、陛下の国を思う気持ちに心打たれたイン・バイルシュタインは陛下を赦す。
何という異世界版『恩讐の彼方に』!
——ちょっと何言ってるか、よく分からない——
いやいや、王様稼業も楽じゃないし、いっそフランツ公も王にして、共同統治といきませんか?
——ああ、それは良いかもしれん。ついでにイン・バイルシュタインも王にして、マルメディアを三つに分割して、三王共同統治だ——
それはまた・・・
——内乱の後で私かフランツ公か、イン・バイルシュタインの内、二名が処刑されるのを残った一人が眺めるのも、また一興だな——
・・・分かってるじゃないですか。
——さあ、このモンテ・アッズーロ産紅茶を飲み終えたら、執務室へ戻ろうか——
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