第32話  小さな終焉


マルメディア ディトマルシェン県 レンツブルク刑務所



おいおい、悪い冗談だろ。


リヒャルト・クラカウアー名義の旅券でマルメディアに入国したが、俺はカルシュタイン大使館付き二等武官アルベルト・フォン・ゲーリケ中佐だ。


外交官特権で逮捕拘束は出来ない筈だぞ。


「憐み深き主よ。私たちの兄弟を、あなたの慈しみでお包み下さい」


聖教会から派遣された神父が、死を前にした者へ行う『赦しの祭儀』を終える。


ふん、死刑執行の流れを実地体験させて、俺を脅しているつもりなんだろう。


手錠、足枷をつけられ腰紐を巻かれて、独房を出される。


長い廊下をゆっくり進んで行く。


大使館が俺を救うために動いている筈だ。


本国外務省も、外交官を見捨てたりはしない。


突き当たりの部屋のドアが開かれる。


おおっと、ご丁寧に絞首刑結ハングマンズノットびで輪が作ってあるよ。


部屋の中へ入る。


「煙草でも吸うか?」と、警務官が尋ねてきた。


「いや、後で吸えるから」


そう言うと、警務官が不思議そうな顔をして俺の顔を見た。


頭から布袋を被せられ、視界を失う。


輪が首にかけられるのを感じる。


「私たちの兄弟が全ての罪を赦されて、永遠の生命の喜びに入ることができますように」


この部屋まで付いてきた神父の声が聞こえる。


やれやれ、いい加減にしてくれ。


本格的な脅しだな。


この死刑は執行を猶予するって、誰かが言うんだろ?


時間のm




高さ5リーグ(5m)からの加速度がついて、懸垂時の体重に耐えかねたフォン・ゲーリケの脊椎骨が骨折し、延髄が損傷した。


身体機能を喪失したフォン・ゲーリケの身体が、ロープの先で振り子のように揺れている。




















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