第31話 後処理②
「宰相。正直、この件の落とし所はどの辺りになるだろうか?」
ふと思ったことを尋ねてみる。
「我が国の要求次第です。未だ、その件の話がなされておりません」
宰相が言う。
「大蔵大臣、君の意見は?」
フォン・ライニンゲン蔵相へ話を振ってみる。
「賠償金支払い或いは領土割譲。もしくは、その両方。レヴィニアが公式に謝罪する。関係者の『断罪』。決して不当な要求ではないと思いますが」
蔵相が意見を述べた。
「『断罪』か」
レヴィニア軍兵士1500、ブリュンの牙が300、郷土防衛隊700くらいが生き残りだったか?
2500か。
そんな人数の埋葬スペースなんかあるのか?
あ、イワシ缶方式があるか…俺はナチスのアインザッツグルッペンかよ!?
「その、我が国で拘禁している関係者の『断罪』は問題なく実施できるが、レヴィニアにいる関係者の『断罪』は可能なのか?」
「それは、レヴィニアにやってもらう他、ありません。今回の件は現地部隊の暴走で、レヴィニア中央は関与してません、では通らないでしょう」
ごもっとも。
「本来なら、公式な謝罪、賠償金の支払い、捕虜返還、これらをレヴィニアが行えば、この件は解決する筈です。ですが、賠償金支払いは拒否してくるでしょうな」
宰相が個人的見解を言った。
それだと落とし所が見えてこないではないか。
「レヴィニアは不当、不法な行為を行なったが、賠償金を支払う気はない、と」
建設大臣のアッケルマンが呆れたように言う。
「レヴィニアへ遺体と捕虜を返還して終わりになるのだけは、何としても回避しなくては。ここはレヴィニアへ輸出している石油・石炭・小麦の禁輸、これで圧力をかけて様子見ですか」
宰相が言うと
「禁輸措置を取っても、備蓄分がある筈です。レヴィニアと我が国の我慢比べになりますが…」
と懸念を見せたのが商務大臣ケルロイターだ。
「向こうが音を上げるまで続けるしかない。こちらが下手に出て、レヴィニアに誤った判断材料を与えるのは極めて危険だ」
宰相が自論を述べた。
「弱腰外交。そう見られてしまうと、今、レヴィニア大使館を取り囲んで抗議、投石を行っている群衆が、今度は矛先を政府へ向けて来る。世論が政府の弱腰外交を攻撃を始めたら、挙国一致を謳っている野党も政局に利用して、倒閣運動を始めるでしょう」
「この国難の折に党利党略とは、恥を知れ、恥を!」
陸軍大臣が罵りの声を上げた。
発言者不明の、彼奴らは馬鹿なのか、の声に
「馬鹿だから政権奪取が出来ず、野党の座にいるのでしょう」
と言ったのは外務大臣だ。
「この状況下で政治的空白を作るのは、得策ではないな。やはり、捕虜の返還は無理か」
会議に参加している大臣や随官全員が沈黙している。
「・・・国民が納得しないでしょう」
法相が小さな声で、そう言った。
「やむを得ない。捕虜の存在を公表して、特別軍事法廷を開廷し、粛々と裁判を進めて行こう。レヴィニアには賠償金を請求。関係者への処分を求める。向こうに動きがあった場合、対応を別途考えるとしよう」
頭の痛くなる問題は、まだまだある。
「次に、今回の騒乱を使嗾した二名のカルシュタイン人だが…」
「当方の情報部員が敵方に逮捕された際、捕虜交換要員として活用する為に、通例、極刑は避けるものです」
外務大臣が一般論を述べた。
「この二名は、国王陛下暗殺未遂の黒幕でもある。法曹としては、極刑を下すしかない」
法務大臣が死刑を主張した。
「あくまで一般論、です。個人的には極刑止む無しかと」
外務大臣が、そう返した。
「彼らは司法取引に応じて、減刑を受ける代わりに何らかの情報提供をする等しないのでしょうか?」
素朴な疑問を法務大臣が口にした。
「解せません」
「尋問で全て吐き出してしまって、司法取引できるような何かを所有していないのだと、本職は考えます」
陸軍大臣の意見に
「そうかもしれませんな」
と法務大臣が納得したようだった。
「他に意見は?」
…無いようだ。
「では、こちらも特別軍事法廷の被告席に立ってもらおう。さて、オストマルク辺境伯の処遇について、諸君の意見を求めたい」
騒乱を起こして、その鎮圧をマルメディアではなくレヴィニアに要請するとか、何を考えていたのだろう。
オストマルク独立でも狙っていたのか?
「これは領地没収、奪爵が妥当かと。その上で、外患誘致罪で裁きを受けてもらいましょう」
淡々と侍従長が言った。
「個人的には、更に闕所も科したいところです」
私財没収もかよ。
「では侍従長、その方向でお願いしたい」
「御意」
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