第30話  後処理①

マルメディア 首都ノイスブルク 王宮 小会議室



投降したレヴィニア兵1519名、死者・行方不明者524名。


逮捕された『ブリュンの牙』のメンバーは、380名、死者153名。


投降したオストマルク郷土防衛隊兵士、788名、死者240名。


騒乱鎮圧に参加したマルメディア陸軍、治安警察、現地警察の死者が635名。


騒乱に巻き込まれた市民の死者、1023名…


犠牲者を多数出して、オストマルクの騒乱の鎮圧には成功した。


『ブリュンの牙』の生き残った構成員は、全員が外患誘致罪を適用されて死刑が確定する予定だ。


郷土防衛隊兵士の内、家族を人質に取られた為、不本意ながら騒乱に参加した54名については、恩赦の話も出ているが、現時点では禁固20年の判決になりそうだ。


残りの734名は、やはり外患誘致罪で死刑。


問題はレヴィニア兵の扱いだ。


正規軍兵士でありながら、軍服を着用せずに越境して破壊活動を行なったのだから、便衣兵ゲリラ扱いになる。


レヴィニアも調印している『テルミット交戦規約』でも、捕らえた便衣兵は処刑して構わないとなっている。


こちらは正当な手続きを経て便衣兵を処刑しました、で法的に瑕疵はない。


だが、それでは…


「面白くないな」


「法的な問題はありませんが、陛下の御意向をお伺いしても宜しいでしょうか?」


法務大臣アインホルンが尋ねる。


「収容できた遺体も含めて、全員帰国させる」


「レヴィニアが先手を打って、そのような兵士は存在していない。マルメディアの捏造であると報道した場合、どうされますか?」


法務大臣がそう言うと


「自国兵士を見捨てるのか!」


と陸軍大臣から憤りの声が上がった。


「レヴィニアが何を言おうと、兵士は存在している。1500名全員が身寄りの無い者ではないだろう。家族、親族が声を上げる筈だ」


外務大臣ツー・シェーンハウゼンが意見を述べた。


「兵士の存在を、公的な形で明らかにしてしまえば良いのでは?例えば、聖教会へ捕虜の名簿を渡し、レヴィニアで氏名を公表してもらう。或いは、捕虜に家族、親族、知人宛ての手紙を書かせて郵送する」


「郵送か。それは面白いが、検閲で廃棄処分される心配があるのでは?」


「ならば外交行囊を利用する。聖教会の伝手で管区の教会へ届ける。手はあります」


外務大臣が意見を披露する。


この人、名前にツーがつく侯爵家の人なんだから遊んで暮らしてもいいのに、何で外務大臣やってるんだ?


「では、捕虜の名簿を作成し、聖教会へ渡す。収容施設の捕虜に手紙を書かせる。書かせる通数は…」


「家族、親族、知人。加えて、管区の教会、地元の議員、社会人経験があるなら在籍していた会社。封筒10通も用意すれば足りるでしょう」


と宰相レーマンが言った。


「よし、それで行こうか。捕虜は軍刑務所、警察留置所、法務省下の拘置所、刑務所と分散して収容されているが…」


「郵便物それ自体は、逓信省の仕事になります。ただ…」


そこまで言って、逓信大臣が言葉を濁した。


「聖教会と交渉する、外交行囊を利用する、これについては外務省の業務となりますが」


と外務大臣が後を継いで言った。


「では外務省にお願いしよう」


一つ一つ、問題を片付けていくか。































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