第29話  パワーブレックファスト

マルメディア 首都ノイスブルク 王宮



今朝も『朝食の間』で、一人パワーブレックファストだ。


今朝のメニューは…ずいぶんとシンプルだな、トースト、目玉焼き、ハム、チーズ、スープ、サラダに紅茶か。


ふんふん、薄切りトーストの上に、アッシェにした林檎?が載ってるみたいだな。


…いや、これは生姜だ。ジンジャーシュガートーストか!


うわっ、口の中に広がる小麦の香ばしさ!少しザラッとした舌触り、これ、全粒粉のパンだよ、マジ美味い!


生姜の香りと食感も絶妙にイイ。これは堪えられないわ。


全粒粉のパンのザラッとした感じはダメだの、ライ麦パンの酸味が嫌だの吐かす奴は、パンを食う資格無しだ、うん。


目玉焼きはオーバーイージーだな。


両面をカリッと焼いた白身の食感と半熟トロッな黄身のツープラトン攻撃は、まさに玉子料理のインスルヘンテス!


人類史に残る三大発明は、パピルス、数字の0ゼロ、そして両面焼き目玉焼きオーバーイージーだ。


異論は認めない。


よし、次のターゲットはハムだ。


…むっ、豚肉特有のクセがないぞ。


この上品な赤身の味わいは、元の世界で食べたイベリコ豚に似ているな。


脂身の甘さも絶品だわ。


こいつは反則だ!


ま、反則はカウント4まではOKだから、4枚ほどいただくとしよう。


さて、旬の冬野菜を蒸したサラダか。


ブロッコリー、蓮根、カブ、人参、芽キャベツと入ってるな。


上にトッピングされてるのは、アサツキのみじん切りか?


この国でも蓮根を食べるのか…


ドレッシングは、オリーブオイルかけただけ…違う!ツォンヨゥ、葱油だ!


何で中華の技法を知ってるんだ?


うはははははっ!マジ美味ぇぇぇ!


チーズはハードタイプみたいだ。


味は…また随分とナッティーで香ばしくて、ホクホクしてるぞ。


コンテチーズに似てるな。


ヤバイ、マズイ、美味い!


熟成感ある白ワインと合わせたくなる。


くそっ、朝から飲むわけにもいかんな。


これはマジでヤバイぞ。


うん、この飴色になるまで丁寧に炒めて作ったオニオンスープ。


タマネギの優しい甘みが身体に沁み渡るなぁ…


この味わい、ホッとするわ。


では、締めの紅茶だ。


…この味、これは……


テーブルに置いてあった真鍮製ハンドベルで、侍従を呼ぶ。


「おはようございます、陛下」


若い女性侍従が『朝食の間』に入室して来る。


「この朝食を調理した者と、紅茶を煎れた者を呼んでくれ」


「仰せのままに」


一礼して『朝食の間』を離れた。



「陛下、お連れいたしました」


女性侍従は、割と恰幅の良い中年男性を連れてきた。


「調理担当侍従グンダハール、入室します」


「グンダハール、この紅茶を煎れたのは君か?」


と尋ねた。


100年ほど前、当時の国王から「料理が口に合わなかった」と叱責を受けた調理担当者が自裁した事件もあった。


それを思い出したのだろうか、何かを決意した表情の調理担当侍従が言った。


「私です。朝餐の問題の責任は、全て私にあります」


「この紅茶について下問する。どのような経緯で、この場に供された?」


あ〜、言い回しが面倒くせー。


これ、どこの紅茶?じゃダメなのかね。


「フリードマン商会食品部門からの献上品です。数ある中から、私が選択いたしました」


「この献上品の詳細について、君が把握していることを述べたまえ」


「フリードマン商会がヴァレーゼ南方に所有している茶畑産地の紅茶です。ヴァレーゼ南方は亜熱帯気候ですが、この茶畑は高地にあり、良質の茶葉が収穫できます。農園は、茶畑のある山の名より、モンテ・アッズーロ農園と称しております」


モンテ・アッズーロ?


青い山?


ヒンディー語だとニールギリか。


そりゃ美味いわけだよ、この紅茶は。


ラストノートで感じる、微かな甘みを感じる香りは最高だわ。


「このような素晴らしい食事と紅茶を用意してくれたことに、拝謝する」


「あっ、有り難きお言葉!」


叱責を覚悟していたら逆に賞賛されたグンダハールが、感極まって震えている。


「私も国王である前に、一人の人間だ。普通に話そう。昼メシ時にもこの紅茶を煎れてくると、ありがたい」


「はっ、仰せの通りに!」


よし、昼にもニールギリが飲めるな。


朝から美味いメシにありつけたから今日は良い一日になるといいのだが…

















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