第28話 治安出動
マルメディア 首都ノイスブルク 王宮 国王執務室
——何だ、それは——
もう、どうにでもなぁれぇ!
「陛下、御聖断を」
宰相レーマンと陸軍大臣フォン・クライストが指示を仰いできた。
「そこはアレだよ、アレ!」
どうするのがベターか、私には分からない。
分からない時の手は、これしかない。
「あれ、と申されますと…」
宰相が怪訝そうな顔をしている。
「だから、ほら、アレだってば!」
「…治安出動ですか?」
恐る恐る陸軍大臣が尋ねてくる。
「そうそう、治安出動、治安出動!」
ほら、答を言ってくれた!
「王都周辺の4個師団と北部方面軍の予備から2個師団を供出して、鎮圧へ向かわせます。国境地帯に配置されている5個師団と合わせれば、早期鎮圧は可能です」
背広姿の陸軍大臣が執務室を出て行った。
「私は閣内不一致にならぬ様、諸卿に根回しをして参ります」
次に宰相が立ち去った。
陸軍大臣はいつも軍服姿なので、マルメディアは陸軍大臣現役武官制なのか、と思っていたが違っていた。
「本職は予備役なのですが、軍の長ということで軍服を着用しているだけなのです」
という事らしい。
現役武官が大臣なら、シビリアンコントロールとは何だ?って話になるわな。
正直、助かった。
いや、助かってない。
ファン・デ・ポール大佐の『自供』は、驚くべきものだった。
マルメディア国境付近に展開しているレヴィニア陸軍第21師団の将兵2000人が、季節労働者に扮してマルメディアのオストマルク辺境伯領へ潜入。
反政府組織『ブリュンの牙』500人、オストマルク郷土防衛隊(アメリカの州兵相当)1000人が騒乱を起こす。
混乱収集の要請がオストマルク辺境伯からレヴィニアにあり、要請を受けて国境付近のレヴィニア陸軍8個師団が越境。
オストマルク一帯を占領する…
なるほど、それで治安警察が押収した小銃が、レヴィニア陸軍の正式小銃だった訳だ。
しかし、この件はレヴィニア政府の承認を得ているのだろうか?
あまりにも作戦が投機的過ぎるのだが…
その小銃含めて装備一式の手配、密輸とレヴィニア陸軍との折衝をファン・デ・ポールが担当。
フォン・ゲーリケは『ブリュンの牙』の組織編成拡大と、オストマルク郷土防衛隊の切り崩しに当たっていた。
武装勢力3500人が蜂起とか、これ、無事に鎮圧できる案件なんだろうか?
——まず、オストマルク辺境伯を王都へ召喚だ。嫡男の叙任の件で話し合いを持ちたい、とでも言えば、喜んで姿を現すだろう。侍従長から伝えてもらうか——
とりあえず、オストマルク辺境伯の身柄を押さえておけば、レヴィニア陸軍の越境は防げそうな気がする。
あくまでも『気がする』だけだが。
治安警察は『ブリュンの牙』の摘発では懸命に動いてくれているが、準軍隊の郷土防衛隊やレヴィニア正規兵相手だと、人数的にも分が悪い。
軍を投入して対応するのがベターの筈だが、この場合、軍に捜査権や逮捕権はあるのだろうか?
——オストマルクを治安維持法宣言下に置けば、軍に令状無しで捜査・逮捕権が与えられる。怪しい、と判断した場合、軍はそのまま逮捕拘禁が出来るようになる——
は?
基本的人権って、何処かに消えてしまいました?
それって軍が暴走した時、誰も止められないってことになりませんか?
——軍の暴走は、大元帥たる国王が止めねばなるまい——
へっ?
いやいや、武装した万を超える集団の暴走が、言葉一つで止められる訳無いと思うんですが。
無理ですってば!
——その無理を通さねば、マルメディアは破滅への坂道を転がり落ちて行くだけだ——
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