第27話 洗顔
マルメディア 首都ノイスブルク 治安警察内
満面の笑みで、治安警察本部長と軍情報部部長が取調室に入って来た。
「ようこそ、エルンスト・カミンスキさん。歓迎いたしますぞ」
「いや、御尊顔を拝見できて、光栄です」
椅子に革帯で拘束されている男性に対し、二人は陽気に声をかけている。
「このような拘束は違法だ。許されるものではない」
カミンスキことファン・デ・ポールが抗議の声を上げる。
「弁護士を呼んでくれ」
「カミンスキさん。我々はあなたがオルシュツィンでしていた仕事のことをお尋ねしたいのですよ。ご協力、お願いできませんか?」
治安警察本部長は笑顔で語りかける。
「弁護士を呼んでくれ。俺には、その権利がある」
ファン・デ・ポールが再度抗議する。
「ふむ、お話し頂けないとは残念です」
と軍情報部部長が言った直後に
「では、尋問を始めるか」
と真顔に戻った治安警察本部長が命令を下した。
取調室のドアが開いて、 水が入った大量のバケツと数個の水差しが運び込まれる。
「では始めます」
取調係員の一人がそう宣言すると、別な係員がファン・デ・ポールの顔が天井を向くように、椅子を傾けた。
別な係員が
「洗顔のお時間だ、カミンスキさん」
と言って、ファン・デ・ポールの顔にタオルを被せる。
「何をする!弁護士をy」
被せたタオルへ、水差しから水をかけ続ける。
一つ目の水差しが空になると、間髪入れずに次の水差しから水が注がれる。
ファン・デ・ポールは暴れるが、椅子に拘束されているので精々顔を左右に振ることしか出来ない。
水をかけ続けて2分。濡れたタオルを顔から外すと、ファン・デ・ポールが咳き込みながら、鼻や口から水を吐き出した。
再び濡れたタオルを顔に被せ、また水を注ぐ。
「話す気になったか?」
係員が水を注ぎながら尋ねる。
ファン・デ・ポールは首を左右に振って必死に抵抗するが、濡れたタオルは顔に貼りついたままだ。
2分。
濡れたタオルを顔から外す。
水を吐き出し咳き込みながら、必死に呼吸するファン・デ・ポール。
あまり間を置かずに濡れタオルを顔に被せ、更に水をこれでもか、とかけ続ける。
首を必死に振る、ファン・デ・ポール。
2分。
濡れタオルを外し一呼吸分の間を取ってから、再び濡れタオルを顔に被せる。
水が注がれる。
今度は1分。
濡れたタオルを外すと、水を咳き込みながら吐き出したファン・デ・ポールが
「待て、話す!話すから止めてくれ!」と懇願してきた。
懇願を無視して濡れタオルを被せ、2分間水を注ぎ続ける。
濡れたタオルを外すと、またも咳き込みながら口や鼻から水を吐き出している。
「お願いだ、話すから止めてくれ!頼む!」
「それでは、あなたがオルシュツィンで何をしていたのか、オストマルクで何をしようとしたのか、話してもらいましょうか、ファン・デ・ポール大佐」
軍情報部部長が言った。
得られた『自供』の内容は、俄かには信じ難いものであった。
「信じられん。裏を取らねば」
治安警察本部前が呻いた。
「フォン・ゲーリケの尋問前に、各部署へ一報を入れねば。まず陛下と宰相、陸相にも連絡だ」
軍情報部部長がそう言って、慌てて取調室を出て行った。
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