第26話  ヒットアンドラン

マルメディア 首都ノイスブルク 外務省第5局




「同時襲撃は難しそうです」


外務省第5局のフォン・ヴァイゼン局長が言った。


「同時でないなら、残った標的に警戒されるな。これはよろしくない」


陸軍情報部部長フォン・カルマン中将が溜め息を交え、そう発言した。


「メルダースとフォン・ブラウンの同時襲撃は、問題なく実行できるでしょう。フォン・ノイラートは厄介です」


フォン・ヴァイゼン局長が言うと


「フォン・ノイラートは大使だ。大使館に引き篭もっている訳にもいくまい。必ず外出する。機会はあるだろう」


と、フォン・クリューガー参謀総長が発言した。


「半分地下に潜っているフォン・ゲーリケとファン・デ・ポールも厄介だ。排除は出来るが、可能ならば逮捕拘禁して活動の全貌を掴みたいのだが」


「その二名の所在は、軍情報部で把握しております。監視に勘付かれている兆候もありません。後は命令待ちの状態です」


情報部部長が説明した。


「では、マイヤーの外出を確認して、マイヤー、メルダース、フォン・ブラウンを襲撃。可能であれば、フォン・ゲーリケとファン・デ・ポールを拘束。フォン・ノイラートの排除は後日、となりますか」


第五局局長が意見を述べた。


「そうだな。それでいこう」


参謀総長がそう言って、会議を締めた。





キュタヒヤ 首都イシュコダル


いつものように新聞の間に謝礼を入れた封筒を挟み、同じ街区を2周回って尾行している者がいないか、商店の店頭の商品を眺める振りをして硝子を鏡代わりに使って背後を確認してから、今日はマニサ記念公園へ向かう。


12月になったが、この国はカルシュタインよりも暖かい。


今日も外套コートを脱いで手にしていたり、外套の前を開けている人が多い。


念の為、マニサ記念公園の手前で急に立ち止まり、来た道へと引き返す。


通行人に不自然な動きをする者はいなかった。


尾行者はいないようだ。


再度向きを変え、マニサ記念公園へ向かう。


指定場所の、冬季は停止している噴水前の長椅子ベンチに男が座っていた。


ゆっくりと長椅子へ向かい男の横へ座りながら、男の横に置いてある新聞の上へ、自分が持ってきた新聞を重ねるように置く。


周囲を見回すと、ボール遊びをしている子供、散歩している老人夫妻、近くの長椅子に座り何かを食べている中年男性の姿が目に映る。


気配がして視線を向けると、横の男が上に重ねられた新聞を手にして立ち去って行くのが見えた。


後は、予め置かれていた新聞を手にしてこの場を離れるだけだ。


新聞の間に挟まっている封筒には、有益な情報が入っている筈だ。


周囲を再度見回すと、乳母車を押した女性と紙袋を抱えた男性が一緒に歩いてくる。


何かを食べていた中年男性は食事を終え、ゴミ箱でも探しているのか首を廻らせている。


この国の屋台で売られている、香辛料を塗して焼き上げた羊肉の薄切りを、玉ねぎ、トマト、パプリカのみじん切りと一緒に丸パンに挟んで辛みのあるソースをかけた料理は絶品だ。


あの中年男性も、どこかの屋台で買ってきた料理を食べていたのだろうか。


帰り道で見つけたら、買うとしよう。


座っている長椅子の脇にゴミ箱があるのが見えた。


中年男性が手にした紙袋を丸めながら、こちらへ歩いて来る。


さて、立ち去るか。


長椅子から立ち上がると、近づいてきた中年男性は結構な距離があったが丸めた紙袋をゴミ箱目掛けて投げた。


行儀が良いとは言えないな、と思いながらも視線は丸められた紙袋がゴミ箱へ入るのを期待して追っていた。



アベル・マイヤーの視線がこちらから離れた。


外套の内側から消音器サプレッサー付きアギオスP25を素早く抜き、胸部へ向けて距離8リーグ(8m)から二連射する。


乳母車を押していた女性士官も、乳母車の中からアギオスP25を取り出して、頭部へ向けて止めの二連射を浴びせる。


後頭部から頭蓋内の内容物を大量に撒き散らして、アベル・マイヤーが崩れ落ちた。


銃声は、ほとんどしなかった。


後は素早くこの現場から立ち去るだけだ。




























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