第25話 訓練風景
マルメディア陸軍 某施設
「今回の任務で使用するのは、こいつだ」
大尉の肩章をつけた教官が、銃表面に露出物がほとんどない小型拳銃を参加者十数名へ見せた。
「アギオスP25。アルノーで製造されている自動式拳銃。11.4×30モル(5.7×15ミリ)の
そう言ってから、
小型拳銃のP25だが、消音器を装着すると全長80ライン(40cm)程度の大きさになった。
「使用時には、この消音器を装着する」
「11.4×30では威力に欠けるのでは?」
「消音器で、更に弾速も低下します」
訓練参加者から声が上がった。
「
「かなり大型の消音器を装着しますが、
別の参加者が質問してくる。
「
「消音器が
「その通り」
参加者から響めきが上がった。
「そんな!」
「どうやって照準するのですか?」
「発砲は、標的の15リーグ(15m)以内に近づいて行う。照準を合わせ狙う、というよりは銃口で標的を指す感じになる」
15リーグだって、とまた声が上がる。
「その為の訓練だ。それと肝心なことだが、標的には必ず二連射を行うこと。プスンプスン、だ」
そう説明した教官が、紙製の人型標的へ向け手にした拳銃を無造作に発砲した。
両手撃ちの二連射が二回。
発砲音は小さく、逆に
人型標的の頭部と胸部に各二ヶ所、計四ヶ所の穴が開いている。
教官が
「やってみたまえ」
銃を渡された参加者は、遊底解放状態のまま両手撃ちの構えをする。
「…消音器のせいで銃の前方が重い。
そう罵ってから弾倉を入れ、遊底を引いて弾丸を装填して別の人型標的へ向けて…
「んーっ?…ああ、安全装置が握り込み型だったか」
発射音より遊底開閉の金属音が大きい。
標的の頭部二ヶ所に穴が開いている。
「反動は、ほとんど無いが…」
次に左前腕で消音器を支えるようにして、片手撃ちで二連射する。
標的の胸部二ヶ所に穴が開いた。
「畜生、この構えだと照準に時間がかかる」
再度、罵りの声が出る。
再度、両手撃ちで二連射、最後に一発発射し、アギオスP25の遊底が解放状態になった。
「このような拳銃を扱うのは初めてだろうが、早急に慣れてもらわなくてはならない。時間の猶予はないのだ」
「この任務が終わったら、本当に二階級特進なんですよね」
弾倉が空になった拳銃を教官へ返した参加者が、そう尋ねた。
「私もそう聞いている。この任務の特殊性を鑑みると、当然の措置だと思う。軍が諸君を騙すとも思えないが」
「これで俺も少尉だ。ガキが三人いてやり繰りでヒィヒィ泣いてるカアちゃんに楽させてやれるぞ」
二等軍曹の肩章をつけた別の参加者が、戯けた口調でそう言ったが
「お前、『貧乏少尉、やりくり中尉、やっとこ大尉』と聞いたことがないのか?」
と中尉の肩章をつけた参加者に返された。
「中尉殿。それ、冗談ですよね?」
「少尉経験者の俺が言ってるんだから、間違いない。下士官だと食堂はタダ飯だろ?俺は将校食堂で美味いメシを食えるが、相当な額を徴収されている。鉄道で移動の際は一等車の利用が義務づけられているし、将校用拳銃も軍刀も儀仗服も、下手すると野戦服も全部自前だ。正直言って、やってられないぞ」
「中尉。意欲を削ぐような話は、その辺でやめるように」
与太話を教官が止めた。
「再度説明する。引き金は、必ず二回引くこと。プスンプスン、だ。では諸君。射撃線につけ。訓練を開始する」
◆
キュタヒヤ首都イシュコダル某所
「不定期でマニサ記念公園へ出向く。外出の際、護衛はいない。移動は基本、徒歩」
数枚の写真を並べた男が説明する。
「行動には規則性が見られないな。セラニク駅、東デニズリ駅も使っている。一応、用心はしているのだろう」
「用心が必要になることをしているからな」
別の男が嘲笑した。
「マニサ記念公園、セラニク駅、東デニズリ駅では、毎回同じ男と接触している。何がしかの情報の受け渡しを行なっていると思われるが」
「情報の授受は、我々には関係のないことだ。接近が可能かどうか。それが最重要だ」
「接近は割と容易ではないのか」
「ただ、現れるのが不定期だ。各地で同時襲撃予定だから、これは厄介だ」
「これまで判明したことを、細大漏らさず本国へ報告だ。我々は引き続き情報収集と監視に務める。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます