第24話 ヒットリスト
マルメディア 首都ノイスブルク 王宮 小会議室
10月の国王暗殺未遂事件、裁判結審後の『取調べ』で判明した事実をシュレック治安警察本部長が説明し終えた。
「オストマルクで『ブリュンの牙』が一斉蜂起。内乱を起こす、か」
ふざけやがって、と言いたかったが、かろうじて抑えた。
「蜂起が成功して鎮圧に軍を差し向けるなら、対カルシュタインへの軍勢を削げる。
オストマルク混乱に乗じてレヴィニアが越境してくれれば、なお良し、か」
参謀総長が淡々と言う。
「私がレヴィニアの人間なら、オストマルク辺境伯から混乱収集の要請があったので進駐する、と軍を越境させますな」
「非常によろしくない状況ですが、テロリストの拘禁は行なっているのですか、本部長?」
侍従長が尋ねた。
「45名逮捕、武器も押収しております。押収した武器の大半はレヴィニア軍の小銃ラドムM3でしたが、レヴィニア軍の関与は現時点では判明してません」
治安警察本部長が答えた。
おいおい、現用のレヴィニア陸軍正式小銃をどこから入手してるんだ?
「関与、使嗾が判明しているのは、カルシュタイン大使館に勤務していたこの4名。そして民間人として入国していた、この2名」
本部長の秘書官が写真を並べていく。
まず1枚目。
「アベル・マイヤー、陸軍少佐。現在、キュタヒヤ大使館勤務」
次の1枚。
「クルト・メルダース、陸軍中佐。陸軍大学教官」
また1枚。
「ギュンター・フォン・ブラウン。外務省マルマリス局勤務」
更に…
「フーゴ・フォン・ノイラート。レヴィニア大使」
そして…
「民間人として活動していた通称ゲルハルト・アイヒンガーことエーリッヒ・ファン・デ・ポール大佐。おそらく陸軍情報部第3局勤務。現在、所在不明」
唸り声が上がった。
もう1枚。
「通称リヒャルト・クラカウアー。本名不明。現在、アルベルト・フォン・ゲーリケ名で、トラペズシア大使館勤務」
「よろしいですか?」
陸軍情報部次長フォン・フンボルト大佐が発言を求める。
「アイヒンガーことファン・デ・ポールは、エルンスト・カミンスキと名乗り、現在リヴィニアのオルシュツィンで何らかの活動に従事しています」
そう言ってから、どうやって撮影したのか、現在のファン・デ・ポールの写真を机の上に置いた。
——国境のすぐ向こう側ではないか!——
怖いなあ怖いなあ、所在不明のスパイ活動従事者の写真なんか、どうやって撮れるんだ?
「それと、フォン・ゲーリケ。クラカウアー名義の旅券で、再度我が国へ入国しております。4日前のことです」
現レヴィニア大使に、国境付近で活動するファン・デ・ポール。再入国してきたフォン・ゲーリケ。武装蜂起を企む『ブリュンの牙』、フォーカード揃ってんじゃないよ。
どうすんのよ、これ・・・
「とりあえず、『排除』の対象者はこの6名と、実行を命じたカルシュタイン公ですか」
「優先順位は、まずフォン・ゲーリケ、次にファン・デ・ポールからですな」
治安警察本部長と陸軍情報部次長が「見積もりの提出期限は?」「来週まで。価格高い方と、もう少し安い方、2つ用意しといて」みたいな軽い感じで会話している。
『排除』って、ズバリ暗殺でしょ?
「フォン・ノイラートは困難ですが、『排除』は可能でしょう。カルシュタイン公ですが・・・」
陸軍情報部次長がそこで言葉を濁した。
「王族の1名を『排除』すれば、今回の事件の膺懲にはなるでしょう」
これまで発言を控えていた外務省第5局…マルメディア情報局局長のフォン・ヴァイゼンがそう発言した。
「公自身よりは子息を狙った方が、あちらの痛手は大きいのではありませんか。『排除』も容易かと」
「では、『排除』対象者の監視は、引き続き各部署にお願いしたい。実行部隊は、陸軍山岳師団から選抜して組織したいと思うが」
参謀総長の意見に異議が出なかったので、会議は終了した。
報復は何も生み出さないが、やられたままで何も行動を起こさないと、相手に侮れる。
ここは熨斗つけてお返しするのが、礼儀というものだ。
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