第19話  尋問という名の

マルメディア 首都ノイスブルク 宮内省病院



退院直前に、マルメディア国王暗殺未遂、護衛の警務官殺害事件の裁判が結審していた。


犯人エーリッヒ・ハーンは裁判でも完全黙秘を通したが、殺人・傷害・爆発物不法所持で重禁固20年の判決となった。


「警察庁長官、その、量刑不当で検察は上訴しなかったのかね?」


もう直ぐお別れとなる病室で、コッホ警察庁長官の報告を受けて、感じたことを話した。


王制を敷いている国ならば、国王暗殺未遂かつ護衛殺害で死刑相当のような気もするのだが…


世論は、判決に納得しているのだろうか?


「検察が主張した外患誘致罪は、嫌疑不十分で無罪となりました。有罪でしたら、量刑は死刑だったのですが」


「…収監先のヴェルゲル刑務所で我々治安警察が『尋問』をする必要があるので、このまま量刑確定とさせていただきました」


治安警察本部長のシュレックが、禍々しいことを『今日は温かいですね』くらいの感じで言ってきた。


「尋問、か」


何がやりたいのかって、尋問じゃないよな。


「裁判は公開され、傍聴人もいました。『尋問』の専門家である治安警察の出番がなかったものですから」


「犯人が完全黙秘を通したので、背後関係等不明となっております。犯人に『自供』を促して、事実関係を明らかにしなければなりません」


この2名、犯人を拷問にかけて口を割らせると言ってるよ。


人権って何だっけ?


「長官、背後及び事実関係を調査して事件を教唆した者が明らかなった場合、その者に対する『断罪』が必要になってくると愚考しますが」


報復すると治安警察本部長が言ってる。


「そうだな。軍の山岳師団や治安警察の一部が、特別な任務を遂行することもあるやもしれんな、本部長」


「……」


限定的軍事行動もあり得るのか?


「いずれは軍上層部と、意見の擦り合わせをする必要がありますか。ああ、囚人が『病死』することがないように管理は治安警察で行います。よろしいですか、長官?」


「うむ、それについては、警察庁よりは治安警察の方が適任であろう。任せる」


国王は汚い仕事にコミットしないでいてほしい、と二人が暗に言っている。


「…報告、ご苦労。引き続き、関係諸氏の精勤を期待している」


やれやれ、囚人が獄中で『病死』確定とか

、本当に民主国家なのか、この国は?


——綺麗事では済まないこともあるのが現実だ。彼らは報復のテロを行うとは言ってないし、囚人を拷問にかけるとも言っていない——


まあ、事が事ですから、仕方ありません。目には目を、ですか。


——目には目?——


失礼しました。この世界の慣用句ではありませんでしたか。


パンにはパンを以って報いよ。


葡萄酒には葡萄酒を。


血には血を。


死には死を。


この表現で理解されますか?


——ああ、そういうことか——


とりあえず、犯人の『自供』がないと先へは進めません。治安警察の仕事に期待するとしましょうか。














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