第18話  召喚と枢機卿②

「枢機卿、その・・・召喚は失敗に終わった、と」


「はい。正直なところ大変申し訳ないのですが、再現性がないので、何故失敗したのかを検証することは出来ません。儀法に参加した10名の修道僧の内、4名死亡。3名聴力喪失となりました」


何だ、それは!


——犠牲が多過ぎる。今後は召喚などする必要はないな——


「召喚は、元々上手くいく筈は無かったのです、陛下」


成功しないと分かっていて、試みたのか?


——何だ、それは!——


「召喚が可能であれば、例えば、戦闘奴隷を大量に召喚し、無限に補充の効く軍隊を組織することが出来ます。また、単純労働奴隷を無給で働かせ、企業が莫大な利益を得ることも可能となります」


後者については、無給ではないが、某人材派遣会社が現実にやっていると思う。


「そうなるか」


「召喚元である異世界にいる筈の神が、それを見過ごすとも思えません。また、逆にこの世界から異世界へ大量の人間が召喚されることもあるでしょう。そうなれば、世界は混沌と無秩序が支配することになります」


確かにそうなのだが、現に私はここにいるし・・・


——理解の範疇外だ——


「召喚とは神の御業ですから、人間の私には不可知なことです。ただ、私の考えは先ほど述べた通りです」


「そうだな。今回の件は忘れるしかないな」


「記録はしますが、ネアルカス図書館の非公開文書にして封印いたします」


「枢機卿、その・・・非公開文書の中には、異端や魔術の書も含まれていたりするのかな?」


興味を持って、尋ねてみる。


「ええ、私も全てを把握してはいませんが、空中浮遊や火炎放射。非常に危険な内容の物があります」


「それらの実現の可能性は?」


「皆無です」


即答だった。


「空中浮遊が可能であれば、戦争で敵の攻撃を受けることのない遥かな高空から、一方的に敵を攻撃できます。ただ、そのような戦闘の記録は残されておりません」


理屈ではそうなるか。


「火炎放射にしても、現代の軍の装備でも防御不可能ではないでしょうか。こちらも戦闘中の火炎放射が勝敗を決した等の記録はありません。そのような極めて強力な儀法が存在するのであれば、その使用の記録が残されておらず、また儀法が継承されていないことも疑問です」


まぁ、そうだろう。


「公開すると、単に人心を惑わすだけか」


「それ故、非公開にされているのだと思われます」


しかし、召喚された私がいる。


枢機卿の見解は納得できるものだが、この世界では魔術が使えるのではないか?


使える人間が『異端者』として迫害されるのを怖れて、公表していないだけではないのか?



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