第15話 冷血漢
マルメディア 首都ノイスブルク 宮内省病院
参謀総長と鉄道大臣が病室を出て行ったのは、昼の1時を過ぎた頃だった。
素早い兵力展開、兵員輸送の為の鉄道新線の敷設工事の説明だったが、建設に必要な予算額は『鉄道と書いて、金を失う道』を地でいく羽目になりそうな、そんな金額だった。
聖教会が政府が発行した大量の国債を購入してくれたが、寄付ではなく借金なのだ。
——聖教会が相手のこの借金は、踏み倒しても構わない、とはいかない。10年利付国債で、半年毎に金利を払わねばならないのだから、頭が痛い——
では陛下、国債発行は止めて、緊縮財政にしますか?
——いっそ、そうするか。それで、カルシュタインの戦勝記念碑に『マルメディアは戦争に負ける瞬間まで、財政黒字を維持していた』と刻んでもらうか——
後世の歴史家が、何と言いますかね?
——後世の評価を気にしている場合ではない。今、どうするか、だ——
では、半年先の利払いの問題は先送りにして、鉄道新線の敷設から始めましょうか。
——…ああ、そうだな——
遅くなったが、ブリオッシュにオレンジジャムを塗り、ハムとチーズを挟んだものと、温め直してもらったショートパスタ入りの野菜スープを食べる。ミネストローネか?
——ヴァレーゼ風のスープか、美味しそうだな——
…陛下、ヴァレーゼでは、生ハムやチーズ、小麦の麺料理が盛んだったりしませんか?
——ああ。説明したことがあったかな?——
そうか、ヴァレーゼはイタリアか。今後、食事はヴァレーゼ風にしてもらおう。
食後のコーヒーを飲んでいると、フォン・エーベルシュタイン侍従長が面会に来る。
「陛下、献上品の横領の件ですが、宮内省内で8名が関与しておりました」
やれやれ、8名もいたのか、8名しかいなかったのか、微妙だな。
「他にも不正経理が調査の結果、明らかになりました。こちらは25名でした」
「その者共の処分は?」
「いきなり30名を超える人数の処分を発表すると、マルメディア官界内部の腐敗を喧伝するようなものですから、公表はせずに宮内省内部での人事異動を行いました」
いや、それ揉み消しでしょ!
——大樹だと思っていたマルメディアの内部が空洞だらけだと知ったら、聖教会も支援から手を引くだろう。そうなったら、お終いだ——
「関与した職員は大蔵省へ出向させ、大蔵省管理下のザルツラントの塩鉱山とザーラの金鉱山で、採掘に従事させております」
宮内省事務職からの強制デューダか、これは堪えるだろうな。
「他の省庁にも警告を出して、極秘で内部監査を進めるようにしております」
「ああ、侍従長の忠義に感謝する。ところで、侍従長の忠誠心は私へのものか?国家へのものか?」
「国家です、陛下」
——……——
「私の究極の務めは、マルメディア国家の存続にあります。仮に陛下が国家存続の支障になるのであれば、これは排さねばなりません」
きっついわ〜、これマジできっついわ。
「では、現在の私はマルメディアに必要であると」
「はい」
「ならば問う。多額の宮内省予算を私しているカール公とその妃ユリアーナは、排されてない以上は国家に必要である、と侍従長は判断しているのかね?」
えーと、カール公って…
——先王、我が父だ——
すると、ユリアーナは例の…
——売国女狐だ——
えっ?今、さり気なくもの凄い話をしてませんか?
「カール公、ユリアーナ妃共に必要ではありません。ただ、優先順位の都合で現在は放置しております」
この侍従長、やはり冷血漢だな。
「いずれは『処分』する、と?」
——さあ、フォン・エーベルシュタイン、どう出る?——
侍従長は、平然とこう言った。
「もちろん、その時点で国家存続の支障になっているのであれば」
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