第12話  簡単な地誌②

30個師団も!


——我が軍は18個師団を配備しているが、現有戦力では防御攻勢もできない。専守防衛のみ、だ——


はぁ、別命あるまで持久せよ、ですか。

しかも別命が出るアテもない。


——これが西部方面の現状だ。さて、次に北のセヴェルスラビアだが——


北にも外患あり、ですか。


——33年前、聖暦1693年にボルグ・ベック協定を結んでセヴェルスラビアとマルメディアの国境線が確定した。イスラ川支流のノイス川から北をセヴェルスラビア、南をマルメディ…——


陛下、私にはこの世界の地理は、全く分からないのです。


——ああ、そこは流して聞いてもらっても構わない。セヴェルスラビアは割と寒冷で植生も単調だ。だが、ノイス川の南側には豊かな穀倉地帯が地平線まで広がっている。南下政策を取るのは、まぁ当然だ——


取られる方には、迷惑以外の何物でもありませんが。


——東カリンハル戦争に傾注し、戦力を北から引き抜いた直後に南進が開始された。ひょっとすると、カルシュタインとセヴェルスラビアの間に秘密協定でもあったのかもしれぬ——


こちらは二正面作戦ですか。


——マルメディアは東カリンハルを失い、更に北ではノイス川から150バイレグほど南下した地点が停戦線となった——


バイレグ?


——1バイレグは、人が1時間で歩ける距離、だよ——


ええっと、仮に4キロとすると…600キロも?!


——セヴェルスラビアは、その後、西のナイメリアと開戦して、現在も戦争は継続中だ。無駄な戦力を割く余裕はない筈だが、国境線沿いに約10個師団が展開している——


空き巣狙いに余念がないわけですか、何とまぁ…


——東のレヴィニアは——


東もですか!


——レヴィニア方面は、まだ平静を保っているな。レヴィニアはヴァレーゼと国境を挟んで睨みあっている。このリブニクを巡る紛争のおかげで、レヴィニア国境地帯に配備している軍勢の数を抑えることが出来ている——


それは何よりです。


——ヴァレーゼとしては、こちらが軍勢をより多く配備して、レヴィニアを牽制してほしいところだろう。だが、レヴィニアはヴァレーゼとの関係改善の切り札として、第一王女とヴァレーゼの王太子の婚約を持ちかけているらしい。私の妃ソフィアはヴァレーゼの第一王女だが、こうなるとマルメディアが打つ手は、マルメディアの王女の誰かをレヴィニアへ嫁がせて、三角同盟でも結びたいところなのだが…——


だが?


——適任者がいない。妹のテレーザは未だ若く、しかも頭の中身が空だ——


妹君が馬鹿とは、またなんとも…


——ああ、どうしようもないが事実だ。継母上から産まれた王位継承権第一位の、私の弟アドルフも相当な馬鹿だが、末妹テレーザは更に酷い。まともなのは、真ん中のフリードリヒだけだ——


高位の貴族…どこかの侯爵家の適任者を陛下の養女として、その、レヴィニア王室へ嫁がせるというのは?


——それも考えた。人選して声をかけると、やれ人身御供は嫌だの、身体が弱くて異国での生活がどうの、婚約内定済みだのと、よくもまあ…——


このままでは、お妃様の実家のヴァレーゼも敵に回る可能性がある、と…


——娘の嫁ぎ先の破綻しそうな家よりは、息子の嫁の実家を取る。そうなるだろうな——


それでは…


——南も何れは騒がしくなるだろう——


隣国全て、餓狼みたいな国ばかりではないですか!


——いや、飢えた狼の方が、まだ上品だろうな——











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