第11話  簡単な地誌①

マルメディア ノイスブルク 宮内省病院



侍従長へ話を通して、何とか食事の改善が叶った。


朝食は間に合わなかったが、昼食は鶏肉のカツレツ、温野菜のサラダ、オニオンスープに紅茶がついた。


午後からは面会に訪れる者もなく、ハインリッヒ3世陛下がこの国…マルメディア連合王国の現状について説明してくれた。


——そもそもマルメディアの成り立ちは、旧暦紀元前6000年前にマルメ川低地地域付近より発掘された土器に——


陛下、近200年程度から説明をお願いいたします。


——…聖歴1526年、今から200年前になるが、カリンハルのカルシュタイン地方にて反乱が起こった。原因は徴税問題だった。徴税官が重税を課したのだ——


マルメディア政府はや王室は、現地で重税を課していたことは把握していたのですか?


——全く把握していなかった。カルシュタインからの税収は、例年と何ら変わらない金額が国庫へ収公されていたのだ。分かる筈もない——


ええっと、重税が課されてたんですよね?


——当時の王弟カルシュタイン公レオポルト2世が、差額を自分の物にしていたのだ——


何と立派な王弟殿下であらせられることか!


——カルシュタインの都市、イグラブルクで徴税官襲撃があり、後は一気にカルシュタイン全土でマルメディアの出先機関の焼き討ちになった。カリンハル西方貴族は、マルメディアからの独立を掲げて旗頭にレオポルト2世を据えたのだ——


へ?重税を課した首魁は、そのレオポルト2世でしょ?


——マルメディア本国への送税がなくなったのだから、当然、重税は解消された。万歳、我らがレオポルト2世——


はぁ…


——カリンハル東方貴族は何か不正に気付いていたのか、反レオポルトの軍勢を催して決戦に打って出た。しかし、援軍の王国軍の到着が遅れ、軍勢は合流することなく各個撃破された。これでカリンハルの大半がカルシュタインとして独立することになった。これがカルシュタイン独立戦争だ——


……


——その後、カルシュタインは、冬戦争、ターボル戦争、グランスカ戦争、1ケ月戦争、東カリンハル戦争と勝ち続け、現在の領域となった——


戦争の拡大再生産ですか。


——5年前に開戦した東カリンハル戦争に負けて、我が国はカリンハルを完全に喪失し、同時にミコルスブルクの聖アルベリック大聖堂に保管してあったカリンハル王冠も失ってしまった——


難儀なことです、としか私には申せません。


——このカリンハル王冠なのだが、簒奪者が戴冠した場合には半年以内に死ぬという伝説があった。当時のカルシュタイン公、フェルディナント6世は戴冠式を強行しようとしたが、ミコルスブルク大司教は、戴冠式は行えないし、祝福も与えられない、と伝説を説明したのだが…——


どうなりました?


——大司教が軍警察に逮捕された。軍警察は、事情聴取の後、即日釈放したと言っているが、大司教の遺体が4日後に大聖堂内の墓地で発見された。凄惨な拷問の跡が残っていたそうだ——


それが聖教会側を激怒させた…


——ああ。それでもカルシュタイン公は、祝福も戴冠式も要らぬ、と後日大聖堂内で自ら王冠を被ったらしい——


どうなりました?


——カリンハル王を名乗ったフェルディナント6世は、2ヶ月後に落馬事故で亡くなった——


!!!


——急遽、即位することになった嫡男のカール2世だったが、聖教会が空位のミコルスブルク大司教を任命しなかった為、戴冠式を行わずにやはり自ら王冠を被った。結果、4ヶ月後に狩猟中の銃の暴発事故で亡くなった——


それ、マジもんの呪いじゃないですか!


——カール2世の弟、現カルシュタイン公レオポルト6世は、呪いは本物だと判断したのか王冠には手も触れていない。国境線の向こう側には、完全武装のカルシュタイン軍30個師団が配備されており、こちらの隙を伺っている。——














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