第6話 現状①
マルメディア ノイスブルク 宮内省病院内
エリーゼを通して、この病棟の警護に当たっている警務官から侍従長へ連絡がついた。
連絡を待っていたのか、割と短時間で侍従長は姿を現した。
「フォン・エーベルシュタイン侍従長がお見えになられました」
「うむ、通してくれたまえ」
「私は外でお待ちしております。終わりましたら、お声をおかけ下さい」
そう言ってエリーゼは病室の外へ出ていく。
病室内へ入ってきた侍従長は、眼鏡を着用した禿頭で、穏やかそうな外見をしている。
ただ、このタイプの外見の人は、恐ろしいまでに冷酷無比な現実主義者であることが多い。
「陛下、お召しにより参上いたしました」
陛下、あなたの言葉をそのまま発すればよろしいですね?
——うむ、頼む——
「何があった?」
「首都ノイスブルクで、反王政主義を名乗る『ブリュンの牙』のメンバーの1人が陛下の乗った馬車へ爆裂弾を投げつけました。10月13日のことです」
「被害は?」
「馬車に同乗していた宮廷警察警務官のテオドール・ベロフが身を挺して陛下を庇い、即死。陛下も重症を負われ、馬車は全損の判定です。市民の被害は、軽傷者5名と聞いております」
手帳を見て確認しながら侍従長が説明している。
——そうだった、馬車には警護役のベロフが乗っていたのだったな——
「犯人は直ぐに取り押さえられ、現行犯逮捕。取り調べには完全黙秘。ただ、ブリュンの牙なる組織は、官憲の資料には全く記載がなく、背後関係の調査待ちの状態です」
「黙秘を貫いているのに、何故、ブリュンの牙のメンバーと分かったのか?」
「犯行声明文を所持しており、その声明文にブリュンの牙、とありました。犯人の名前は、エーリッヒ・ハーン、25歳、小学校教員。オストマルクの出身なのが判明しております」
——オストマルクか、また都合よくカルシュタインとは離れた地域の出身だな——
「…カルシュタイン大使館員で、事件以後に我が国から出国した者は?」
「3名。名前と顔写真もあります」
手帳を確認しながら、侍従長が答える。
「2名は駐在武官です」
——早速、逃げ出したわけか。自分達がやりました、と言ってるようなものだな——
「現在、政務は誰がとっている?」
「フランツ公が摂政にお就きになられました。国王代行として政務を見ておいでです」
「フランツ叔父上が摂政か」
「昨日までは問題なく、摂政の務めを果たされております」
それって、今後は問題が出てくるってことか?
——否、単なる事実説明だよ——
「…しかし、あの馬鹿がしゃしゃり出てこなくて良かった」
「あの馬鹿、が誰を指しているのかは私には分かりかねますが、お父上と弟君が摂政をやらせろ、と」
——信じられない愚劣さだな——
「宰相とラインハルト公から、この国難の折、己の権力欲を満たす為に摂政に就けろ等、破廉恥の極みと一蹴されたようです」
「あの硬骨宰相レーマンなら、そうするだろうな。ラインハルト従叔父も反対だったか。侍従長、君の今後の見通しは?」
「陛下を狙ったテロリズムについては、これは犯人を押さえてありますので、供述待ちです。誰かに始末されないように警護を厳重に行うよう手配済みです。無論、毒殺にも注意しております」
——さすがだな——
「政務に関しましては、フランツ公が目を光らせておりますので、こちらも間違いはないでしょう。ラインハルト公もおられますし」
「うむ」
「あくまでも私の推論ですが、陛下を亡き者として最大利益を得るのは、『売国女狐』、弟君辺りですから、捜査はこの辺りへ傾注すべきなのでは、と・・・」
弟君だって?
国王暗殺未遂の黒幕が、実の弟だって?
——売国女狐のことは説明しなくても良いか?——
いや、説明をお願いしたい。
——売国女狐とは、継母上のことだ。父上の後妻。現太上国王妃のことだ——
なんてこった!
継母が先妻の子供、現国王を殺しにきたのか?
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