第4話  病床から②

某所 病院内



ここは一つ、営業先で担当者の上司の名前をド忘れたした時のアレでいくか。


「君の名前は?」


「ノイマンです、陛下」


ドイツ系か?ノイマンなら、Neumannって書いてくれよ。


「それは胸章を見て分かっている。名前は何と言うのだね?」


ここがキモだ。


申し訳ございません。部長のお名前を失念してしまいましたので、再度お伺いしてもよろしいでしょうか?


——芹沢だよ、芹沢。君、担当先の会社の——


いえ、芹沢部長なのはわかっております。


下のお名前を失念してしまいまして。


——そう言うことか、晃一だ——


そうでした、芹沢晃一部長でした。


今後とも弊社との末長いお付き合い、何とぞお願い申し上げます、芹沢晃一部長。


「エリーゼと申します」


「そうか。エリーゼ・ノイマン、見守ってくれてありがとう」


「…直に感謝のお言葉をいただき、末代までの誉にございます」


ブロンドの美人看護師が目をウルウルさせている。


「ちなみに、ここは病院だと思いのだが…」


「ノイスブルクの宮内病院です」


その声を聞きながら、意識を失うように再度眠りについた。


意識を失う寸前に、やるなぁ、と声が聞こえたような気がしたが、多分空耳だろう。


目が覚めた。


どうやら夜になっているようだ。


「お目覚めですか?」


男性の声だ。


「今、何時かな?」


「22時になりました。夜間当直医のフォン・マッケンゼンです。夕食の準備は済んでおります。お召し上がりになられますか?」


それよりも口の中が乾いて、いや、乾ききっている。


「申し訳ない、水を所望したいのだが」


フォン・マッケンゼンがベッドサイドの水入れからカップへ水を注いで、ストローを刺して口元へカップを運んでくれる。


美味い!


乾いた口の中が潤っていくのが分かる。


フォン・マッケンゼン?


彼もドイツ系の名前だな。


ならば、日本語を話しているのは何故だ?


「ああ、そうだな。夕食を頂こうか」


食欲はなかったが、何も食べていない身体に栄養を与えなくては。


「かしこまりました。温めてまいりますので、少々お時間をいただきます」


食事の際、ベッドを起こしてもらったが、特に背中や腰に痛みは感じないで済んだ。


「それは、ようございます」


とは、フォン・マッケンゼン医師。


温め直してもらった、オートミールの粥のようなものと、ソーセージとキャベツの入ったスープ、カットされたリンゴを少し口にして、遅い夕食を終わらせる。


ここがドイツなら、メシはまぁ期待できそうもない。こんなものだ。


しかし、病院のスタッフはドイツ系の名前の白人だが、話す言語は日本語。


一体、これは何が起きているんだ…







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