第3話 病床から①
光を感じる。
眠っていたのか?
眩しくはないが、瞼を閉じているのは苦痛だ。
瞼を開けようとするが、妙に瞼が重い。
ぼやけた視界の中に写る天井を見上げたその時「先生!先生!」と誰かが大声を上げて部屋から駆け出して行く気配がする。
声がした方へ視線を動かすと、白衣が見えた。
女性の声だったから、看護婦さん、いや、今は看護師さんか。
ド金髪だったな、ヤンキー看護師か。
病院?のベッドに寝かされているのは理解した。
地下通路で爆発に巻き込まれた、そんな記憶はある。
ふいに右耳の後に痒みを感じたので、掻いてみる。
掻けない。
いや、右手が動かない。
どうなっているんだ、と思った時、足音が聞こえた。
足音のする方へ頭を向ける。
どうやら首は動くようだ。
見ると3名の医師と、その後には数は分からないが看護師がいるようだ。
全員、外国人?
ベッドの側へ来た医師が「玉体に触ることをお許し下さい、陛下」と訳の分からないことを言う。
しかし、日本語は流暢だ。
医師は瞼を指で広げて何かで光を当ててくる。
瞳孔の収縮を見ているのだろうか。
眩しい。
次に聴診器で心音を確かめている。
聴診器の金属部分が妙に冷たい。
しかし、陛下って何だ?
「医師の職分として申し上げます。ご記憶されておられないかもしれませんが、1週間前、陛下は爆発物を使ったテロリズムに遭われました」
あっ、地下の爆発はテロだったのか。
でも陛下って誰?
「緊急搬送され、全身打撲、右下半身に軽度の火傷、右手、右脚の骨折と診断いたしました。我々医師団は、全治3ヶ月と見立てております」
右手が動かないのは、それが原因か。
医師の着ている白衣の胸元に視線をやると、そこには胸章があった。
だが胸章に書かれている文字は、今まで見た事の無い文字だった。
何だ、あの文字は?
日本語を話しているのに、何でネームプレートには見たことのない変な文字が書いてあんの?
漢字か、この人達は外国人だからカタカナでしょ、普通。
「1週間昏睡されおられましたが、意識も戻られましたし、これからはゆっくりではありますが快方へ向かっていくものと思われます」
陛下と呼ばれているから、以前見た動画の昭和天皇陛下のように「えぇ、あっそう」と冗談でも言おうとしたが、さすがに不敬だと思いやめた。
でも、私って陛下なのか?
「また回診に伺わせていただきます。失礼いたします」
そう言って全員が一礼して、1名の看護師を残して医師達が部屋を立ち去った。
残った看護師は、おそらく目覚めた時に医師を呼びに行った、あの看護師と同一人物だろう。
その看護師の胸元の胸章に視線を向ける。
ダメだ、書いてある文字が読めない。
名前が分からないのは、やはり不便だ。
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