第14話 神が死んだ

転移水晶という物がある。

大地さんがかなり前に、

道具屋で仕入れていたらしい。


その力で私達はたびたび街に戻り、

転移水晶を使って元の階層に戻る。


街は大部分が復興された。

ゴブリエルの襲撃の時に、

ずいぶんと人口が減ったけど、

それでも以前と活気は変わらない。


みんなこの街が大好きで、

この街を元気付けているのだろう。


だから私は言ったんだ。


「私達は、英雄じゃないですよ。」


街民は困った様子だったが、

それでも私達の気持ちを理解した。


私達は街を守れなかった。

ゴブリエルは倒したけれど、

この人達が失った物は大きいだろう。


この世界で唯一の、

安心できる暖かい街。

それが壊されてしまったのだから。


私たちは魔物から手に入れた金を、

ほとんど街の復興に費やしている。


最初に出来たのは商店街で、

お金のない人に無償で物を売った。


次に出来たのはシェアハウス。

私たちは利用しなかったが、

生き残った街人の住処になっている。


その後も様々な施設が作られていて、

街に戻るたびに新しい発見がある。


だけど今日街に戻った時は、

いつもと雰囲気が違っていた。


「神が…死んだ…?」


それは確かな情報らしい。

塔から溢れるエネルギーが、

急速に低下したのだとか。


私は髪をぶっ飛ばして、

元の世界に帰る方法を、

聞き出すつもりだったのだが…。


「じゃあもう…帰れないのか…?」


「そんな事はないよ。」


振り返ると、そこには人間が居た。

体格は高校生のようだが、

雰囲気がまるで違う。


「俺の名前は神谷左門。

 神を…殺した男だ。」


男は続けた。


「俺にはこの世界の神の様に、

 新しい世界を創造する力はないが、

 神が作った世界に入る事ができる。

 そして神を殺す事で、

 俺はその世界の神となるのだ。」


「お前は私が元の世界に戻る方法を、

 知ってるのか??」


ああ、知っているさ。と、

男は続けた。


「君を召喚した神は、俺だから。」


「俺は東大受験に補欠合格をした。

 だからお前が他の世界に行けば、

 俺は東大に行けるって訳だ。」


「だがしかし、

 君の世界は不安定だった。

 塔を登った先の神階は、

 限りなく現実に近くなる。」


「だから君の心を折るために、

 受験が終わっても、

 勉強を続けさせる為に、

 呪剣を授けたんだ。」


「だがしかし、

 そろそろ塔も攻略されそうだ。

 だからこの世界の神を殺して、

 自分でお前を迎え撃つ事にした。」


「神階でお前を待っているぞ。」


男はそう言い残して、

塔の最上階へ飛び去っていった。

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