第8話 沼地フロア
階段を上り切ると、沼地があった。
「うぉ〜!空気が美味しくねぇ〜!」
ただ、こんな環境を好む魔物も居る。
私は自分の周辺を見渡した。
スライム、スライム、スライム…。
「スライムだらけだな…。」
ぬかるんだ土地を歩いて行く。
制服は泥でびちゃびちゃになり、
今直ぐにでも着替えたいくらいだ。
特に靴下!歩くたびにじゅってなる!
しばらく歩いたら人影が見えた。
10代位の少年が何かを探していた。
「この塔の中に人が…?」
近付くと、それは人では無かった。
人の形を成しては居るが、その姿は、
全身青くてぷるぷるで、液体の様だ。
「ここにも居ない…。」
少年はスライムを抱え上げて、
入念に観察をした後放り出した。
「少年、君は魔物か…?」
少年は「分からない。」と答えた。
少年は、生まれた時から流体だから、
本当の自分が分からなかった。
分かっているのは、
「ドドド」と言う名前だけだった。
彼は魔物の集落で幼少期を過ごした。
自分と同じ姿の魔物は居なかったが、
相手の好きな外見に自分を変える事で
彼は集落に受け入れられていた。
だけどその代わりに、
本当の自分の姿が分からなくなった。
だから少年は沼地フロアに、
本当の自分を探しに来た。
ここには自分と似た者が沢山居る。
だけどどれだけスライムを探しても、
自分を見つける事は出来なかった。
「見つけた。」
ドドドは遠くを指さした。
そこには一際大きなスライムが居る。
「お母さん。」
ドドドは走り出した。
彼はゴブリンとスライムのハーフだ。
そもそもが不安定な存在で、
自分の正しい姿なんて存在しない。
だけど、ドドドはドドドだ。
彼が最後に選んだ姿こそ、
彼自身なのかも知れない。
ドドドの母はドドドを見つけたが、
それが自分の息子と分からなかった。
ドドドの母はドドドを吸収した。
この辺りにスライムが多いのは、
スライムが魔物を食い尽くしたから。
ドドドはスライムではない、
別の魔物だから、助かる術はない。
ドドドの母こそ、
このフロアのボスだった。
私は呪剣を構えて様子を伺う。
「大地さん、準備は良い?」
「あぁ、ばっちりだ。」
ドドドの母はこちらを敵と認めると、
自分の身体を分裂させて、
スライム弾を乱射して来た。
全てかわした時、
大地さんは既に攻撃を加えていた。
だが、剣で切ると流体になり、
拳で殴ると硬くなる。
ドドドの母はドドドの、
姿を変える力を吸収していた。
私もぼさっとしていられない!
「因数分解!!!」
ドドドの母を白い光が包むが、
彼女は全く衰えた気がしない。
「元の係数が高すぎる…!」
ドドドの母は私を弱いと認めたのか、
こちらを集中的に狙って来た。
「痛いっ…!」
泥で滑ってかわしきれず、
足に痛烈な一撃を喰らった。
最後に一際大きな弾が飛んでくる。
私は「死んだ。」と思った。
この塔に入った時から、
死ぬ覚悟は既に出来ていた。
夢を叶えられないくらいなら、
生きていても仕方がないと思った。
だけど、いつまで経っても、
痛みが来ない。薄く目を開けると…。
「大地さん!!」
前線で戦っていた大地さんが、
瞬間移動でこっちに戻って来ていた。
生きるために手に入れた力を、
私を守って死ぬために使われた。
「大地さん…!死なないで…!!」
既に大地さんは呼吸をしていない。
縋り付いて泣いていると、
もう一つ、スライム弾が飛んで来た。
スライム弾は私の頭に命中して、
私も意識が遠くなっていった。
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