第7話 主人公体質
これは私が受験生だった頃のお話。
教室の窓際でテストを受けていた。
「正直暇だ…。」
解ける問題が一つもなくて、
時計を眺める事しかできない。
テストが終わるまで45分。
この時間はただただ苦痛だった。
「勉強、頑張ったんだけどな…。」
青チャートを何周しても、
解き方も公式も頭に入って来ない。
自習ではそこそこ解けるのに、
テストになると何故か出来なくなる。
全国模試では数学は万年最下位。
最下位と言っても、
受験者数と順位の数は同じではない。
例えば0点を取っても、
最下位が5人いれば下から5番目だ。
偏差値は12。他は65くらいなのに、
数学だけはやっても出来なかった。
最下位は怖い。
下から2番目の人の頭の良さは、
3番目より下で最下位より上。
だけど最下位は、誰の上でもなく、
2番目より下である事実しかない。
そこは無限に低い可能性のある、
いわば測定から外れたの数値なのだ。
これは最早深淵である。
でも私はどうしても、
東大を諦めるわけには行かなかった。
私には兄貴がいた。
彼の名前は神田小路。
誰に対しても優しい兄貴だった。
でも兄貴は東大受験の直前に死んだ。
ある物理の授業で、
兄貴は事故って感電死した。
それはとても不幸な事故だった。
私ももうすぐ大人だけど、
兄貴の死を受け入れられなかった。
だからかも知れない。
学校での兄貴は見た事ないから、
制服を着た兄貴の死体の事を、
自分の兄貴の様には思えなかった。
今もどこかで、
生きてるんじゃないかとすら思う。
だけど、兄貴はもう家に居ない。
だから私は兄貴の意思を継いで、
東大に行って自由になろうと思った。
友達も作らず、恋もしないで、
睡眠も食事もそこそこにして、
兄貴の死から逃げる様に、
私は東大受験に打ち込んだ。
だから私はその思いを邪魔する、
数学の事を許せなかった。
どれだけ勉強しても出来ないのは、
神様の悪戯かとさえ思えた。
だけど受験に落ちて2年後、
数学知識が急成長を遂げた。
成長のタイミングは人それぞれだが、
私は成長が遅い遅過ぎる自分自身を、
主人公体質と呼んだ。
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