第3話 ゴブリエル

街の東にやって来た私は、

衝撃的な光景を目にした。


「街が…無い…。」


街の東半分は焼け野原になり、

その中心で緑色の巨人が暴れている。


何人が傷ついたのだろう。

何人が死んだのだろう。


さっきあんな事を思った、

自分をの頬を思いっきりぶん殴った。


あれは経験値なんかじゃ無い。

まさに恐怖を具現化した生き物だ。


巨人の背中には黒い翼が生え、

頭には黒い羊の角が生えている。


「ゴブリンと言うより悪魔だ…。」


怖い。勝てない。動けない。

でも、この戦いから逃げられない。


経験値のためじゃない。

素性の知らない私を受け入れた、

この街への少しの恩返しだ。


「マダ…ムスメガノコッテタカ…。」


「ああ、私は逃げない。

 お前を倒すまで、

 私はここを離れない。」


「ワガナハ、『ゴブリエル』。

 ゴブリンデ、イチバンツヨイ。」


私は人生で初めて誰かと殴り合う。

だけど、争い受験には勝ち抜いて来た。


これは異世界で最初の争い。

私の実力を試す、プレテストだ。


「模擬試験、開始!」


ゴブリエルに向かって走り出す。

でかいやつには間合いを詰めて、

リーチの不利を消しながら速さで…。


と思ったけど、これ思ったより辛い。

元の世界での運動不足が祟ったか…。


だって仕方ないじゃん!

受験期間に運動してる暇ないもん!


怪我もしてない脇腹を抱えながら、

ゴブリエルに向かって突っ込む。


その時だった!


「オソイ。」


ズガーン!!ドーン!!


ありえない速さのパンチで攻撃され、

宙を舞う。そこにゴブリエルは、

すかさず追撃を加えた。


「重量級なのに、

 速いしコンボ決めて来る…。」


何よりも転生時に、

ステータス強化が無かったのが痛い。


もらったのはこの呪剣の能力。

この能力も何かよく分かんないし…。


「私の嫌いな物…?だっけ…?」


もう一度剣をよく見るが、

何か変化がある訳では無かった。


「ニブイ。」


ドガッ!ゴゴゴゴゴゴ…!!


余所見をしている場合では無かった。

身体中が痛い。


あのゴブリエル、

私が死なないギリギリを見極めて、

生きたまま痛めつけて来る…。


もう無理だ。諦めて死のう。

あの巨体には、指一本触れられない。

もはや、強さの次元が違いすぎて、


「次元が違う…?」


そうか、そう言う事か。

私の嫌いな物、私の能力が分かった!


受験が全てだった私にとって、

嫌いになれるものなんて1つしかない。


それは、数学…!


「こんな"展開"じゃ、

 "カッコが付かない"けど、

 私はお前に負けられない!」


「因数分解!!!」


唱えた瞬間、敵を光が包み込んだ。

因数分解の能力は、

強さの"次数次元を下げる"事。


「ナッ!オレノジゲンガヒクク…。」


「これで強さは同格になった。

 武器を持つ私が有利だな。」


ゴブリエルにとどめを刺そうとした。

その時だった。


「ダレモオレヲ、セメラレナイ。」


!?


最近どこかで聞いたセリフだった。


「オレハ、トウヲオイダサレタ。」


「デカクテ、ジャマダトイワレタ。」


それは元の世界を追い出された、

私の心に似ていた。


ゴブリエルにとって、

生まれてからずっと居た塔は、

それこそ世界だったはずだ。


全てを破壊したくなる、

そんな気持ちもわからないでは無い。


「お前の願望は実らない。

 だが例え偽りでも、

 そこにiがあるはずだ。」


ゴブリエルはゴブリンの中で、

誰よりも大きく育った。


ただこのままだと、

塔から出られなくなり、

外の世界を見られなかっただろう。


それを不憫に思った仲間が、

塔の結界が緩んだ時に、

ゴブリエルを追い出したのだ。


「お前が魔物でなければ、

 私達は通分した分かり合えたかも知れないな。」


模擬試験を制した私は、

ゴブリエルにとどめを刺した。

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