一二戒 激昂

 使千は右手を構えたまま熊に近づく。熊は使千から遠ざかり、自ら部屋の隅へ逃げる。

「あー、何してんの?」

「熱波だ。電子レンジあるだろ?あれだ。」

 よく分からん。

 熊は自らを大きく見せるが、使千は一向に動きを変えない。

 ブオオォォォオオ――

 突然熊が使千へ襲いかかる。身を引き攻撃を躱すが、何だかヤバそうな感じだった。

「あー、熊公、俺が相手してやる。」

 俺は熊をぶん殴ろうとして熊に近づいた。だが使千がまだ熱波を熊に浴びせていて、めちゃめちゃ熱かった。

「あー使千、他になんか攻撃手段無いの?」

「ならこうする。擬装・鷲爪フォルム・コンドル

 使千の右腕は、まるで鳥の爪のように鋭く、至る所に少し曲がったトゲのような物が生えてくる。

「肉弾戦だ。」

 トゲトゲした右腕で熊に殴りかかる。俺も混じって熊に殴り掛かる。

 予想外にも、熊の体は硬く、人間の骨を砕くつもりで放った拳が少ししか効かない。使千の攻撃は多少なりとも肉を抉っていた。

 熊は激昂し激しく暴れる。人間の何倍もの腕力と鋭い爪で俺達を殺そうとしてくる。熊の腕を弾き、躱し、打ち、2人で熊にダメージを与えてく。

 ガラッ――

 突然した瓦礫の音に反応してしまい、俺は反射的に音の鳴った方向を見た。

「危ねぇぞ!」

 次の瞬間、熊の手は俺の肩をぶっ叩き、俺は壁に激突した。

「ってぇなぁ。誰だよあたしの可愛い顔をぶん殴ったクソ野郎は。」

 フードが外れ、めちゃくちゃ怖い目付きで蒼猪さんは起き上がった。口元はいつもの黒と赤の変なガスマスクみたいなのを付けてて、いつも以上に鋭い赤い眼と黒い短めの髪。

「てめぇか熊!ぶち殺してやるからかかって来い。」

 熊は使千では無く蒼猪さんの方へ向かって突進する。

「久しぶりにムカついたから、滅多に見せねぇ技で死ねよ。氷金剛拡散銃ダイヤモンドショット

 蒼猪さんは太もも銃を抜き横に向け、逆の手で輝くショットガンの弾のような物をコイントスする。

 熊、弾、銃が一直線に重なった時、蒼猪さんは銃を放つ。放たれた弾丸はショットガンの弾に当たり、中から煌びやかな物が一斉に拡散、熊の肉体に数え切れないほどの小さな穴と、頭には一発目の弾丸の穴が出来る。

 ドチャ――

「へっ、汚ぇ。」

 蒼猪さんは銃を太ももに戻す。

「あー!すげぇ!あんなの見た事ねぇよ!さっきのはなんだ?」

「あたし、氷を作れるんだ。知らなかっただろ。それでショットガンの弾作ったら面白いと思って、初めて実践で使った思い出の技だ。」

「あー、氷作れるって何だよ。」

 蒼猪さんは何かを摘む用な手の形を作る。すると、そこから透明の固形物が出来上がる。

「な?」

「あーいやいや、な?じゃないよ。どうやるの?」

「んー、念じる?笑」

 蒼猪さんは常識外れの芸当を見せてくれた。横から使千も来て訳の分からないことを言い出した。

「俺は火出せるぜ。」

 使千が右手で中指を立てこちらに向ける。すると、指が燃え始めた。

「あー、出来ないの俺だけ?」

「知らね。でも、光狼も火出してたじゃん。光炎十字!つって。」

 確かに言われてみればその通りだ。光狼も火出してた。俺も出来んのかな?

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