一三戒 北夕鮮へ

 谷西露の十二支は北夕鮮に居ると分かり、俺達は首都の模素鍬から東南にある北夕鮮へ向かっていた。さすがに、徒歩で行くにはあまりにも時間がかかるため、公共交通機関を利用しながら進んでいる。

「あ、あなた達は…?」

 バスに乗っていると、見知らぬ女性に声をかけられた。なんでも、戒盾十三人のファンだと言う。現戒盾2人と元戒1人が一緒にいれば、確かに声をかけたくなる気持ちも分かる。

「握手してください!」

 普段こんな事が無いから少し嬉しかった。さっきの熊との戦いもあってか、気が緩んで眠くなってきた。

「なんだ眠いのか。少し寝てな。」

 隣を見ると、使千が既に眠っていた。俺も少し休憩する事にした。





 ぺち――


 ってえな。


 ぺち――


 んだよ。


 ペち――


「あーもーさっきからぺちぺちぺちぺち!」

 目が覚めると、バスの中が血の海になっていた。

「あー、どういう状況?」

「まぁ、聞けや。」

 俺と使千が寝ている間、バスの中の人間全て襲ってきたらしい。しかも、俺と使千の眠気は戦闘疲れじゃなくて催眠ガスだったようで、蒼猪さんはマスクをしてたから大丈夫だったそうだ。そこからはもう大量虐殺の始まりで、1人残らず殺して今に至るらしい。

「あーこっわ。」

「守ってやったのに怖いってなんだよ、お前も殺すぞ。」

「運転手も刺客なら、目的地とは違う場所に進んでるんじゃないか?」

 確かに、敵を易々と自分らのボスに会わせるはずがない。

「それは心配いらねぇ。バスに乗る前に呼んどいた。」

「何を?」

 ドスドスドスドス――

 怪獣を見たことは無いが、その類いが走る男がする。

「あたしの支地干天、猛猪もういだ。コイツで北夕鮮まで行くぞ。」

 蒼猪さんは戒盾を辞めたにもかかわらず、使千器や支地干天までいる。全く訳が分からなかった。

「言いたいことは分かる。でも聞くな。今度教える。」

 自動車より少し大きいイノシシに乗り、再び北夕鮮へ向かう。


「もーそろそろか?」

 バスなんかより格段に早く、道を曲がらず突き進むイノシシは、予定よりずっと早く目的地に近づけてくれた。線路を辿ると、そこには大きな砦があった。

「使千、なんか見えるか?」

「まだ何も……。いや、血まみれの男が倒れてるのが見える。それに、ギターらしきものも握ってる。」

 使千が見た男の方へ行く。すると、その男とは関係無く、砦の方から人が3人ほど出てきてこちらに向かってくる。

「君たち面白いものに乗ってるね、ここからは北夕鮮だけど、ここから入っちゃァいけない。向こうにゲートがあるからそっちへ行ってくれ。」

 砦から出てきた1人の男が優しく案内してくれた。

「あー、ありがとう。」

血まみれの男を横目に案内された方へ行く。だがすごく妙だった。砦の人達はなぜあの倒れてる男にノーリアクションなんだ?それにあのギター、見覚えがある。

「あー!あれ眠兎みんとのじゃん!てことはあいつ、十二支?」

「いや、そうとは限らないだろ。」

 男に近づいていき、ギターを拾うと、先程話しかけてきた男がものすごい速度で逃げていった。

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