十戒 谷西露

「あー!寒い寒い!」

 雪国の谷西露に軽装で来たのは間違いだった。蒼猪さんはいつもの格好が暖かそうだからいいけど、使千の格好は俺と変わらず戒盾の正装で、右腕だけ鎧だった。

「あー、使千は寒くないの?」

 使千は右腕を見ながら呟いた。

「俺、寒さとか暑さとか分からねぇんだ。味も分からない、視界に色も映らない。生き物じゃねぇんだ、俺。」

 寂しそうな顔で拳を握った。

「あーでもお前、コーラはよく飲むじゃん。」

「あれは別だ。コーラを飲んでる時だけ生きてる心地がする。」

 ヒステリックなのか厨二病なのか分からんやつだ。

「くっちゃべってねぇでさっさとこの国の首都に行くぞ。」

 蒼猪さんが1番張り切っていた。


 谷西露の首都 模素鍬モスクワ


 ビルが多くなり、明るい店や美味しそうな飯屋が沢山並ぶ場所に来た。

「あー、ここで地道に聞き込みするの?」

 蒼猪さんは俺を小突くと、ビルとビルの間の裏路地に入り、壁を蹴り上へ、上へと駆け上がって行く。俺と使千も蒼猪さんについて行き、ビルの上まで来た。

「あんたの探し物探してみな。」

 蒼猪さんは、十二支より先に使千の探し物に協力するみたいだった。

「あー、十二支は?」

「こいつが先。十二支の情報は、この国の偉い人を脅せば喋ってくれる。」

 こっわ。

 使千は胸の前で拳を握り、まるで祈っているかのようなポーズをとっていた。

「ねぇな。」

「んじゃ使千器集め行くか。」

 俺達はビルからビルへと移動し、ここで1番偉いと言われている人物に会いに行った。


「あー、あれが大統領のいる場所か〜。」

 クレムリンと呼ばれる城塞に、この国の偉い人がいるらしい。

「あたしらはあそこに殴り込みに行く。やる事は2つ、1つ目は衛兵を殺してでも中に入る、2つ目は絶対に十二支について聞き出す。おけ?」

「作戦は。」

 蒼猪さんは指で0の形を作り太ももの銃を抜いた。

 バン――

 俺達は3つに分かれて行動することにした。蒼猪さんが正面、俺が左で使千が右。

 鳴り響く警報と赤いランプ、ゾロゾロと複数の兵隊のような格好をした人間が出てきた。正面から切り込みに行った蒼猪さんは、心底楽しそうに人を斬って進んで行った。

 俺の方にも兵隊が来た。俺が飛び道具を持っていないことを確認すると、彼らは一切に銃を放ってきた。

羅刹星らせつしょう

 俺は1人に狙いを絞り、弾丸より速い速度で敵に高速接近しぶん殴る。

「からの〜?地壊破じかいは!」

 続けざまに地面をぶん殴る。地上最強の人間は、拳で地震を止めると言うが、所詮は人間。人間離れした戒盾が地面をぶん殴ればどうなるか、結論はこう。デカい地震が起きる。

 敵がよろめき膝をつく。蒼猪さんは殺してもいいって言ってたから、体制の崩れた衛兵を遠慮なく本気で殴る。

 逃げ出す衛兵がいれば、立ち向かってくる衛兵もいた。来るものを拒まず、楯突く奴らを皆殺しにし、蒼猪さんの後を追って、俺は建物の中に入っていった。

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