九戒 狼

「なにしてんだよ、お前。」

「あー、久しぶりだな。」

 そこに居たのは光狼だった。あれから1年が経ち、急に居なくなった俺の事どう思ってるのかな。

「あー光狼、悪い。でもこうするしかなかった。政府にはもう従えない。」

「理由を言えよ、言われても納得できねぇけどな。」

 光狼は本気で斬りかかってくる。俺も殴り返すが、俺は光狼を傷つける気が無い。ただ止まって欲しかった。

「何が目的なんだ。」

「あー、政府を止めるんだ。俺達は騙されてたんだよ。」

 傷つける意思のない攻撃が飛んでくる。

「遊んでんじゃねぇぞ。いい加減にしろよ。」

 少し本気で向き合いたかった。俺は殺意の乗った拳を叩きつける。

 ピキ――

 光狼が使千器を念入りに手入れしていたのはよく知っていた。だからこそ、俺の一撃で傷を付けたのが嫌だった。親友の相棒をこの手で。

 俺は光狼に触れずに帝の間へ進んだ。



 1年前 政府庁



 俺は谷西露やしろ担当になり、今は身支度を整えている。

 すると、とある男から声がかかる。

「虎閃、俺も行っていいか?」

 声の主は鳥の使千しせんだった。彼は探し物をしているらしく、遠い所の任務へ行く人について行き、仕事を手伝うのと同時に探し物の情報を現地の人に聞いているらしい。

「あー、いいよ。」

 使千は礼を言って、先に外で待ってると言い会議室を出た。

 蒼猪さんが光狼と話を終えてこちらに近づいてくる。嫌だなぁ。

「虎閃くん?あたしもついて行って良いよね?」

 目をぱちぱちさせて可愛子ぶっている。こういう所なんだよなマジで。

「あー、蒼猪さんはさ、パパッと赤丸に戻ってね?たのしくウグッ……。」

 満面の笑みで腹を殴られた。蒼猪さんの顔には、『連れてかないと殺す』と書いてあった。

 一通りの作業が終わり、谷西露に行く準備は整った。

「あー、なら俺らは先行くからよ。また今度な。」

「おう、死ぬなよ。」

 光狼としばらく別れて行動することになる。あんまり無かったな、こういう事。

「ああ虎閃さん!」

 鼠乃そのが俺を呼び止めた。てくてく近寄ってくると、透明な板を2枚渡してきた。

「あー、何これ?」

「これは『WEphone』です。離れた相手に、気軽に電話やメールが送れるタッチパネル式の携帯電話です。あなたとペアの2つしかないので。」

 鼠乃が蒼猪さんの事をチラ見した。

「あたしのは?」

「無いです。」

「なんで。」

「戒盾十三人じゃないので。」

 蒼猪さんが雄叫びを上げている。相当欲しかったようだ。

「それでは行ってらっしゃい。」

 俺と蒼猪さんは政府庁から出て使千と合流する。

「あー、それじゃ行くか、谷西露。」

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