二九戒 猿

「簡単なコイントスをしましょう。光狼さんが上げてください。」

 俺は出されたコインを取り右手の親指の上に乗せる。

「賭けをしましょう。」

 マスターはグラスにオレンジ色の液体を注ぎ、上にはマリーゴールドの花を置く。

「ただのオレンジジュースです。私が勝ったら代金を貰いましょう。光狼さんが勝ったらお代は要りません。」

 俺はコインを弾く。

「私は裏に賭けます。」

 パシ――

 コインを手の甲でキャッチし、左手でコインを隠した。



「ふふ、私の勝ちですね。」

 手を開くと、見えている面は女性の顔になっていた。裏には紋章が刻んであり、表裏の無いコインではなく、ちゃんとしたコインだった。

「それではお代を頂きますね。先程も言いましたが、時間が解決してくれる問題なら、ゆっくり焦らず行動するといいでしょう。あなたとの遊びは楽しかったです、やりましょう。」

 マスターは微笑んだ。

「光狼くん、余計な事をして済まなかったな。代金はわしが……。」

「いや大丈夫です。俺が受けた賭けなので俺が払います。」

 オレンジジュースを飲み干し、代金を払って店を出た。

のご来店お待ちしております。」



 2日後


 ガチャ――

「一昨日言ったっすよね、ノックはして欲しいっす。」

 叢雲と羽々斬は作業台の上ではなく、壁に立て掛けてあった。

「助かった。それじゃこれで。」

「待って欲しいっす、約束忘れないでください。」

 俺はこいつが正直嫌いだ。恐らく聞猿も。犬猿の仲とはよく言ったものだ。

 聞猿は透明の板でインターネット検索?と言うやつで目当ての物を俺に見せる。渋々代金を渡すと、聞猿は飛ぶように喜んでいた。

「光狼、叢雲と羽々斬はしっかり見たっす。外傷は全く無いし、めちゃくちゃ綺麗でした。使千器を修繕できる、俺の二ノ刃にのやの出番は無かったっす。引き続き大切にしてやって欲しいっす。」

「分かってる。」

 俺は聞猿の部屋を出て会議室へ向かった。


「あれ〜?任務に忠実な光狼くん〜?まだ行ってなかったのかな〜?」

 リオンは嫌味ったらしい言い方で俺を挑発してきた。しかもちょろちょろしながら。

「今使千器のメンテナンスが終わったから、そろそろ行こうと思って一言声かけに来たんだよ。」

「そっかそっか、他のメンバーは各々の場所に行ってるよ。光狼くんは……、フランだよね。行ってらっしゃい。」

「待ってくれ。」

 リオンはキョトンとした顔でこちらを見てきた。

「俺、あいつの分まで強くなりてぇ。突然居なくなったのは腑に落ちねぇけど、俺はお前みたいな強さが欲しいんだ。」

 俺は自分らしくない言葉をリオンにぶつけた。マスターが言ってた、『時間が解決してくれる』事を強さに変換して、十二支を討つと決めた。幻獣戦の後の襲撃で苦渋を舐めさせられた時に欲しかった力を。

「そっかそっか。言うと思って、君には僕の知り合いの中でも飛び級に強い人の所を提案したんだよ。行ってらっしゃい。」

 俺が熱くなると、リオンも熱い回答をしてくれた。

 俺はリオンと拳をぶつけ、仏に向かった。

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