二八戒 店

「光狼くん、ひとつ提案なんだが。」

 政府庁を牛丸さんと歩いていると、牛丸さんが話しかけてきた。

「使千器をメンテナンスしておく方がいいんじゃないかの。」

 これから1年間鍛錬するにあたり、異常がないか見てもらうのは当然と言えば当然。

「確かにそうですね。アイツ居るかな。」

 俺は政府庁の中にある戒盾の各部屋を見て回る。

 ガチャ――

「ノックはして欲しいっす。」

 猿の部屋にいたソイツは聞猿ぶんえん。使千器をメンテナンスできる唯一の人間。誰が使千器を作ったかは知らないが、こいつ以上に使千器に詳しい人間は聞いたことが無い。

「なんすか。」

「これを頼む。」

 聞猿は露骨に嫌そうな顔をする。

「えー、なんかしてくれるんすか?」

「…後で好きなエロ本買ってやる。」

 聞猿は抜刀前の叢雲を俺から奪い取って、自分の部屋の奥にある作業台のような場所に置く。

「はぁ〜、やっぱり光狼の使千器は訳分からんっすね。なんなんすかコレ。どうやったらこのバトンリレーのバトンみたいな棒の中にバカでかい刃が収納出来るんだ?」

 聞猿が叢雲を渡してきたので、抜刀して聞猿に返す。

「……んよいしょ。どれどれ?」

 作業台から小道具を沢山出し、熱心に叢雲を見る聞猿。

「一応分離させて欲しいっす。」

 叢雲から羽々斬をスライドさせて分離させ、再び作業台へ戻す。

「とりあえず2日欲しいっす。研磨と掃除に時間がかかるんで、その間はテキトーにしておいて下さい。約束忘れないでくださいっすよ。」

 俺と牛丸さんは聞猿の部屋を出て再度歩き出した。


「さて、着いたよ。」

 牛丸さんに適当に着いていき、ブラブラしていると思っていたが違った。一旦政府庁から出て、街を歩いていたら、いつの間にか飲食店っぽい店の前まで来ていた。

「ここは?」

「まぁ着いてきなさい。」

 言われるがまま、『REPEATEDLY』と書いてある店に入っていく。

 一見、外から見たら普通の定食屋のような見た目の場所だったが、中に入ると、よくあるバーのようだった。

「いらっしゃいませ。あら、牛丸さんじゃないですか、こんにちは。」

 白いスーツを身にまとい、胸元に『デキマ』と書かれた名札の付いた女性がいた。

「こんにちは。今日はこの子も連れてきたんじゃ。」

「あなたは光狼さんですね?こんにちは。席へお座り下さい。」

 俺は軽い会釈をし、指されたカウンター席へ座る。

「お話は牛丸さんに聞いてます。戒盾十三人で頑張っていらっしゃるようで。」

「はぁ。」

 俺は今19歳で、この国の法律では酒は飲めるが、今はあまり飲む気分じゃなかった。

「マスター、ここに光狼くんを連れてきたのは理由があるんじゃよ。」

 牛丸さんは、俺と虎閃の関係や、先日の十二支襲撃の件、諸々俺が悩んでいるような話をマスターに話している。牛丸さんはエスパーか何かなのか?

「そうでしたか。なら軽くなれる薬でも出しましょうか。」

 マスターは根本的な解決にならない手段を提供してくれた。もちろん違法なので断った。

「冗談です。悩み事なんて生きていれば誰にでもあります。私の場合は、時間が解決してくれる事が多いです。なので気長に、時間を重ねていけばいいと思います。」

 そう言うと、マスターは1枚のコインを出した。

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