二七戒 羊

「……て……おき……!起きて!」

 目が覚めると、俺は政府庁の医務室にいた。

「良かった。」

 治療係の羊子ようこさんがこちらを見ていた。

「十二支がいなくなって良かったわ。あなたも相当ボロボロだしね。」

「…他のやつは?」

「眠兎ちゃんと蛇亀くんは上にいるわ。リオンさんも。牛丸さんがあなたの隣で眠ってる。牛騎にタコ殴りにされてたからね。」

「虎閃は?」

「それが、十二支に攫われちゃったかもしれないのよ。」

 虎閃が攫われるのと、俺が朧気に見た光景は関係があるのか?それともただの思い違いか?あれは夢だったのか?

「もう立つの?ならこれ使いなさいな。」

 羊子さんは松葉杖を渡してきた。

「まだ激しく動かないでよ。」

 俺は他のやつが居るであろう会議室に向かった。


「あ、光狼。」

 予想通り、鼠乃、眠兎、蛇亀、リオンは会議室にいた。

「さて、光狼も来たことだし、話をしようか。」

 リオンはいつに無く真剣な口調で席から立つ。

 ガチャ――

 会議室にスーツを着た人がぞろぞろ入ってきた。そこには、警護対象のアイにエヌ、そして滅多に見ないエルもいた。

 それぞれはリオンの横に立つ。

「さ、まずはこの襲撃からだ。ここにいた戒盾は手を挙げて?……鼠乃だけか。あとは豪馬ごうまたつが居たと思うんだけど、今は居ないね。ま、いいや。君達の働きを疑ってるわけじゃないけど、この襲撃は未然に防げたと思うんだ。もちろん僕の失態でもある。平等に責任を負うとして、これからは鍛錬してほしいんだ。二度とこういう事の無いようにね。僕たちの仕事は政府の人々の安全を守る事、そのために僕らが強くないとダメだよね。だからこういう機会を設ける。」

 リオンは長い机の上に紙を滑らせる。

「これは君達への鍛錬の提案書だ。一年でこなしてね。話は終わりだよ。動ける者はなる早で。では解散。」

「あ、あと……。」

 エルが細々とした声でリオンに話しかける。

「あぁ、そうそう、虎閃は昨日限りで戒盾から抜けさせるから。」

 急な話で納得がいかない。詳しい説明も無しに、今まで共にしてきた相棒のような存在がいなくなるなんて。

「待ってくれ。」

「どうしたのかな光狼。」

「なんで虎閃の腕をぶった斬ったんだ。」

「あれは間違えたんだ。十二支を斬ろうとしたら虎閃が前にいたんだ。」

 腑に落ちない言い方だった。まるで何か別の理由を隠しているかのような、そんな言い方だった。


 俺は医務室に戻ると、羊子さんはハープをひいていた。眠兎のド派手なギターとは反対に、美しく品のある音だった。

 そういえば昨日、眠兎は獣器を使って腕が獣のようになっていたが、さっき見たら特にいつもと変わらない腕だった。

「羊子さん、眠兎の腕って戻ったんですか?」

「そうそう、私も見た時何じゃこれと思ったけど、獣器?っていうのを使千器に戻したら治ったみたい。最初は戻し方が分からなそうで焦ってたわ。」

 牛騎が獣器を使千器に別けているのを見て何となく思っていたが、やはり眠兎でも出来ていた。

 眠兎の腕の件で一安心した俺は、羊子さんのひくハープの音も相まって眠ってしまった。

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