二四戒 幻獣③

 俺は叢雲で円を描くように地面を擦り、火花が出始めると同時に叢雲を幻獣めがけてぶん投げる。幻獣の肥大化した頭に突き刺さった叢雲に手をかざし、俺は霧になる。霧として幻獣の前に立った俺は叢雲を掴み、羽々斬を突き刺したまま幻獣を空高く打ち上げる。

 打ち上がった幻獣の羽々斬に手をかざし、突き刺さった場所にまた霧となって羽々斬を掴む。宙に舞っている状態で、刺さってる羽々斬と握っている叢雲で、幻獣の胴体を上下に真っ二つにする。

「くたばれえぇぇぇ!!!」

 二つに別れた身体に、それぞれの剣を突き刺し地面へ叩きつけた。

 幻獣は悶えもせず、じんわりと地面に赤い液体を広げる。数秒経つと、幻獣はピンク色の結晶となって砕け散った。それと同時に、宙に浮いていた万符翔と糸弓剣が地面に転がる。

「はぁ、っ……。」

「おいどうした!」

「わりぃ、これ使うとぶっ倒れちまうんだ。」

 蛇亀が心配してくれている隣で、馬将がじっとこちらを見つめてきた。

「おい小僧、今の眼は何だ。」

「はぁ、はぁ……、目?何言ってやがんだ。」

「そうだぜ光狼!さっきお前、目開けた時漫画みたいに青く光ってたぜ?」

 戦ってる自分の姿なんて見ようと思っても見れるもんじゃないから知らなかった。

「さっきの眼……、いや何でもない。」

「何だよ馬将!気になるじゃんか!」

 蛇亀は馬将に擦り寄るが、馬将は相手にせず腕を組んで何か考え事を始めた。

「いや違う!眠兎は大丈夫か!?おい眠兎!」

 蛇亀は眠兎を軽く揺さぶる。

「いや!もう斬ったり撃ったりしないで!!」

 眠兎が訳の分からないことを言いながら目を覚ました。

「なんだ、良かった。何ともないみたいだな?」

「違う!どうして私の事攻撃してきたの!?死んだかと思ったじゃん!」

「貴様ら、一旦死合場の控え室に行くぞ。そこで私の知ってる事と娘の状況を伝える。」

 俺は蛇亀に担がれ、俺達は控え室に向かった。


「まず娘、お前は戦ってる私達が鮮明に分かっていたんだな?」

「なんなら私が攻撃されてたよ!」

「ふむ、やはりそうか。アレは娘であって娘では無かった訳か。」

 1人で納得している馬将を、蛇亀が小突いて説明を求めた。

「幻獣は結晶から現れた。結晶は使千器の持ち主そのものだ。つまり結晶から現れた幻獣は娘そのものだが、娘は結晶から現れた幻獣では無い。そこの違いを娘が無意識に考えていたからこそ、娘は意識だけ幻獣に乗っかってしまったんだろう。」

「……つまり?」

「娘、自分の幻獣の姿はわかるか?」

 蛇亀が無視されて隅で不貞腐れた。

「ううん、分からない。」

「なら貴様が想像しろ。その姿を強く思い描いて貴様の2つの使千器を近づけろ。」

 眠兎は万符翔と糸弓剣を持ち、目を瞑り2つを近づける。

「娘、目を開けていいぞ。」

「…うそっ………。」

 眠兎が持っていたものはギターでも糸鋸でも無い。

 それはバイオリンだった。

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