一八戒 支地干天

 狼は俺に、兎は眠兎に近づいてきて目の前で座る。

「こいつらまだ名前が無いんだ。付けてやってくれないか?」

 蛇亀は紙とペンを俺達に渡してきた。眠兎はすぐ紙に名前を書いているようだが、俺はまだ決まらない。

「あんまり悩む事ないよ〜。名前に意味を付けると後々もっと悩む事になるからね〜。」

 眠兎は紙に兎の名前を書いて蛇亀に渡した。

「『因幡いなば』か。良いじゃねぇか!あとはこいつに…。」

 蛇亀は渡された紙を兎に見せると、兎は嬉しそうに跳ねた。

「これからよろしくね!因幡!」

 眠兎は自分よりも少し大きな兎を抱きしめる。兎もそれに反応して頭を眠兎に擦り付ける。

「まぁ悩む気持ちも分かるが、こいつを見てみろ。何となく不安そうに見えねぇか?」

 俺は少し考え、思いついた名前を紙に書き蛇亀に渡した。

「へぇ、『ハティ』か。大事にしろよ。」

 因幡と同じように、蛇亀は狼に紙を見せる。すると、狼は遠吠えをして俺に近寄ってくる。

「よろしくな。」

 ハティを撫でると、こいつは静かに笑った。

「よし、支地干天を渡したからな。お前らの任務に行ってこい!」

 俺達は蛇亀に礼をして、それぞれの支地干天に乗って印都に向かった。


 乗り心地は非常に良くて、どういう力か知らないが空も飛べる。陸地から行くには、途中で政府非加盟国の土地に入るため空から行った。

「着いたけど暑いね〜。」

「暑いは暑いけど、これは人々の熱気だろ。英政府王国に負けず劣らず人の往来が激しいな。」

 俺達はまず街の飲食店で話を聞く事にした。

 近くにある店に入り、飲み物を注文して十二支についての聞き込みをする。だがあまり有益な情報は得られなかった。

「ダメだ〜。次の店行こ。」

 店から店へ、街から街へと移動をして話を聞いてみるが、一向に十二支についての情報が無い。

 そうしているうちに1週間が経過する。眠兎が任務に飽き始め、透明な板で鼠乃に連絡をしていた。

「ねぇ!本当に印都にいるの!?全然見つかんないんだけど〜。」

「うるさいですね、今調べます。」

 少し経つと鼠乃が通話の向こうで笑ってるのが聞こえてきた。

「なんか分かったの?」

「すいません、フフ、印都にいるはずの十二支は今赤丸にいるみたいです。」

 眠兎が透明の板を握りながら口を開けなかった。

「あ、でももうすぐ印都に帰るみたいですよ。すいませんねフフ。」

 眠兎は声を荒らげ無かったが、確実に怒ってることはわかった。

「まぁ、眠兎。空港に行って出待ちでもすれば一瞬で会えるしな?」

「そうだね。」

 眠兎は荷物を携帯して泊まっていた宿から出ていった。外からは『バカヤロー』と叫ぶ眠兎の声が聞こえた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る