一三戒 兎

 眠兎がギターを弾くと、上の階層でザワついていた声が止む。何だか俺も気が抜けそうになる。

「今だよ〜光狼。優しく聞いてボスのところに行こ〜。」

 階段を上がると、そこは居住区のようになっていた。置いてある武器は少なく、まるでマンションのロビーのようになっていた。

 椅子に座って3人ほどで話をしている奴らがいた。眠兎はそいつらに近づく。

「おい眠兎、大丈夫か?」

「大丈夫〜。ね、君たちのボスはどこにいるの?」

「お客さんかい?ボスはここから3階上がったところのフロアにいるよ。気をつけて行ってね。」

 男はふにゃふにゃした口調でボスの居場所を吐いた。これも眠兎のバフのおかげだろう。

 俺たちは階段を登る途中で子供や老人も見かけた。嫌な想像をした。


 5階に着いた俺達は周りを見渡す。すると1部屋だけ扉の空いた場所があった。眠兎に気をつけるよう促し、使千器を構えながら扉の中に入る。

「ご苦労、光狼くんに眠兎。」

「あんたがダットの親玉か。」

 眠兎が座っている男を見て唖然としていた。

「な、なんでパパがここに?」

 ダットのリーダーは眠兎の親だった。戒盾の血縁者でこんな大層な騒ぎを起こす事、十二支の可能性が出てきた。

「嫌そうな顔をしないでくれよ光狼くん。確かに、私は君の想像している通り十二支だ。私は月兎げっと。ここへはなぜ来たんだ?」

「黒電話部隊の龍と交換条件で来たが、目的が増えたな。」

「ふむ。狙いは使千器か。眠兎、万符翔貸してみなさい。」

 眠兎は躊躇無く使千器を相手の兎に渡す。

「懐かしいな。」

 座っていた男は立ち上がりギターを構える。

 ギイィイィィュイイン!!

 眠兎の演奏よりも重く空気を震わせ、今にも鼓膜が破けそうなほどの大音量で演奏を始めた。

「避けて光狼!」

 眠兎が携帯ナイフを持ち出し俺に襲いかかってきた。

「何すんだよ!」

「これ、パパの得意技なの!聞こえるはずの無い不思議な声で身体が操られる!」

「はっはっは!身操旋律マリオバフはどうだ眠兎?久しぶりに喰らっただろ!」

 音は空気の振動、月兎はギターで奏でる音の振動を変えて、対象者のみに聞こえる特殊な音で操っているんだろう。

「光狼、万符翔の弦を切って!そうすれば音は出なくなるから!」

「んな事言われても!」

 女の子とはいえ、彼女も戒盾十三人。身体能力は化け物並みな上に、操縦者の得意技ときた。正直眠兎の攻撃を受けるので精一杯だ。

「ほらほら〜、眠兎を殺すか眠兎に殺されるかだぞ〜?」

 俺は叢雲を地面に突き刺した。

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